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研究助成

成果報告

2008年度

ロシア経済の多様化と対ロ直接投資

一橋大学経済研究所教授
久保庭 眞彰

 プーチン政権と次期メドベージェフ政権の掲げる、ロシア経済の長期的最重要課題(2008〜2020年)である、資源依存からの脱却、すなわち経済の多様化(「ハイテク」化、知識集約化)の現実と展望について、我が国の対ロ直接投資との関連において分析を行ってきた。特に、この多様化に大きく貢献すると考えられる、日本の対ロ直接投資・技術協力の一環として自動車生産(完成車と部品の組立)に力点を置いて研究を試みた。
 日露共同研究において、自動車産業を中心とする日本の対ロシア投資について、主として、ロシア経済多様化への貢献について、統計資料(拡張産業連関表等)・現地情報を駆使して、計量的に検討することを試みた。その際、部品現地調達率向上や人材養成や良好な労使関係構築という難問の解決方向の検討や進出日本企業が立地するサンクトペテルブルグ市・レニングラード州における自動車産業クラスター形成の利点と問題点の検討を行うことにも留意した。本研究では、ロシアの政府戦略情報、産業統計情報、投資情報、自動車市場情報、サンクトペテルブルグ地域情報だけでなく、日本企業や世界の大手企業の対露投資情報・戦略も検討した。また、分析も実物分析だけでなく、金融、証券等を含めて多角的に行うことに留意した。この点に関連して、モスクワのシンクタンクや有力学術機関、サンクトペテルブルグのシンクタンクとの国際的研究ネットワークを有効利用して研究を進めることができたと考えている。
 ロシア経済の成長と多様化について詳細な統計的研究を行い我が国の代表的な邦文学術誌に論文を発表した(「ロシア経済の成長と多様化」『経済研究』2009年1月 pp.1-16)。
 2009年2月サンクトペテルブルグの国際会議において、ロシアの自動車産業について報告を行った。論文(”Present and Future Problems of Developments of the Russian Auto-industry”)はロシアのレオンチェフセンターより刊行予定(Russian research Center, Working Paper, No.15, May 2009として公開)。
 2009年3月17日内閣府主催国際シンポジュームにおいて、二重の危機(オイル価格下落とリーマンショック)の元でのロシア経済について報告を行った。
 2009年4月末から5月はじめにかけて、台湾の政治大学スラブ研究学科、淡江大学スラブ研究学科において、研究主題について英語で講演を行った。反響は著しく、今後における台湾におけるロシア経済研究、日ロ関係研究の発展、日台学術交流に新たなページを開いたと考える。
 2009年7月の国際産業連関分析学会(IIOA)大会(ブラジルサンパウロ)において、研究成果を発表した(”Growth and Diversification of the Russian Economy in Light of Input-Output Tables”)。ロシアの国家統計局からも1名を会議に招聘し、BRICsの学術研究の発展に貢献したと考えられる。  今後に残された最大の課題は、2008年9月以降の世界経済危機とロシア経済不況ならびにそれらの今後の展望を踏まえた、ロシア経済多様化と対ロ直接投資についての研究である。これらについては、継続課題として現在研究を推進させている最中である。

2009年8月
(敬称略)

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