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研究助成

成果報告

2008年度

国際協力NGO職員の労働環境改善に向けての研究

東京外国語大学大学院地域文化研究科教授
伊勢崎 賢治

 本研究は、日本におけるNPO/NGOセクター、特に国際協力を担うNGO職員の労働環境の改善に向けた可能性を探ることを目的としている。その中でも、「一社一人」運動(従来の企業の社会的責任(CSR)としての民間企業によるNPO/NGO支援ではなく、NPO/NGO職員を社員の一人として組織に内包する支援形態)の実効性について焦点を当てた。
 研究の構成は、第一段階として、「一社一人」の実効性について企業の経営者側から、そして労働者側からの視点を得るために関係者を招いての協議を行った。その結果、現在の日本の企業の経営環境では、その実効性はいかに企業のトップが自主的に判断を下し、その企画を上層部にアウトリーチさせるかにかかっており、それは大きな企業であればあるほど困難になる。ただ、そのための戦略いかんでは、「一社一人」はひとつの連鎖的な新しいムーブメントになる可能性がある、という結論を得た。しかし、その戦略において、NPO/NGO側の自主努力として、いかにNPO/NGOがひとつの専門的な「職能」として社会に認識される状況をつくるかが、「一社一人」を企業側が受諾する鍵のなることも確認された。
 よって、研究の第二段階は、日本におけるNPO/NGOの職能性の確立というテーマに移行した。NPO/NGO中間支援組織の第一人者、社会的に十分認知されているNPO/NGO組織の責任者、そして従来のCSRを超えて、企業とのより「Win Win」な関係構築を社会起業の観点からNPOを研究対象としている研究者などを招き、協議を行った。更に、これらの視点からの海外調査を、寄付文化の「先進国」といわれるアメリカと寄付文化の定着度合いとしては日本と同様であろうと予想された韓国で行った。結論として、戦後日本における国際協力NGOの職能確立は、官によるODAが飛躍的に社会認知されたにもかかわらず、進んでいないことを確認するにいたった。
 結論として、本研究を通じてNPO/NGOによる国際協力が、寄付文化や従来のCSRを超えて、いかに日本の企業組織に内包されるか、というテーマの現実性を見極めることができた。「一社一人」運動の現実的戦略基盤が本研究によって確立されたと言える。

2009年9月
(敬称略)

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