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研究助成

成果報告

2007年度

「政治と時間、政治体制の時間構成」に関する比較政治学的研究

学習院大学法学部 教授
坂本 孝治郎

 上記のテーマについて、第2期「政治と時間」研究会を5回にわたり学習院大学で開催し、また、2007年度・日本政治学会研究大会で、坂本・若林・中居が、「政治と時間研究」をめぐってというセッションで、第1期研究会の成果に関連した報告を行った。
 第2期においては、新たに近代日本政治史・現代欧州政治史等の研究者の参加を得て、「政治と時間」研究の課題と意義をめぐる接近視角(Juan J. Linzの1998年の論文- Democracy’s Time Constraints―)を共通の知的基盤として研究会を重ねた。
 村井の報告:「近代日本政党政治と時間―1920年代を中心に」 (1)政党内閣制が本来予定されていない明治憲法下で短期間ではあるが政党内閣制が成立していた時期に関連して、1918年の原内閣から1932年の齋藤実内閣までにつき首相が何日で選ばれたか点検してみると、首相選定に要する日数に顕著な相違が見られ、それは当時の政治改革の帰結でもある。(2)政党内閣期の主要な行為者であった二大政党(政友会と憲政会・民政党)の時間構成を1926年11月21日から1928年7月22日について整理・考察した結果、両党ともに冬の通常議会に向けて議員総会や院外団大会などが設定され、日程の優先順位として通常議会、特別議会、選挙、地方大会という流れがあること、そして、特殊な政策課題の設定においては臨時の有志代議士会が機能していることが指摘でき、なかでも日程から院外団の位置づけの両党での相違が読みとれた。
 武藤の報告:「権威主義体制の時間メカニズム-フランコ体制の事例を中心に-」
(1)J.リンスは権威主義体制を「無制限な支配」と規定したが、実際は色々な制約を受けており、権威主義体制が時間的制約(「暫定性」)を受ける要因は様々である(権力奪取の非合法性、先行体制の正統性、権威主義体制による支配の「正常な統治」からの逸脱度など)。しかし、「暫定性」の圧力を受けつつも、体制が自発的にかつ明示的に自らの支配期間を限定(「暫定性」の確立)すれば、当該期間内の持続可能性は大きく高まることになる。(2)スペインのフランコ体制(1936-1975)の場合、先行体制(第二共和政)の打倒から「暫定性」の確立まで様々な紆余曲折の可能性が存在した。すなわち内戦終結後から1950年代まで、一方では王政に代表される「正常な統治」の復古、他方ではファシズム的国家建設という、相反する契機が並行して進んだ。その結節点が1958年の「国民運動原則」であり、これによりフランコ体制の「暫定性」が確立し、フランコ死後の体制移行が規定された。(3)リンスにより提唱された「権威主義体制」論は、従来は政治体制の類型論と捉えられることが多かったが、先行体制を打倒した権威主義体制を見る際は、中長期的な政治変動過程の中に位置づけ、体制の各局面におけるダイナミズムの違いに着目することが重要である。また、社会における「正常な統治」という認識は、現在世界に散見される強権的支配への「揺り戻し」現象を解明する際にも有益な視座たりうる。
以上に加え、ポール・ピアソン『時間の中の政治』の議論(歴史的分岐点と経路依存性という概念)に依拠した池本の報告(「イギリスと欧州統合:歴史的分岐点としての1970年代」)、及び、時間を政治の実践的手段として操作する主体の時間認識を対象にする「メタ時間の視点」から日本の戦後改革と戦後を見ると、主として戦前(戦中も含めて)と戦後の時間の切断、連続非連続、戦後の出発時期などをめぐって、その時空構成の「物語り」上で激しい対立がある、という雨宮の報告などからも多くの知見を得た。さらに、研究会を重ねて09年度に共著論文集を出版することを目指している。
なお、具体的な研究成果論文として、坂本孝治郎 <「政治と時間」研究:ことはじめ>(『学習院大学法学会雑誌』43巻2号所収、2008年3月)を参照されたい。
2008年8月
(敬称略)

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