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研究助成

成果報告

2006年度

東アジアの政治と文化:西欧化・近代化・グローバル化の中の国家像・社会像の追求

早稲田大学政治経済学術院教授
坪井 善明

 本研究は、専門分野の異なる政治学研究者と文化人類学研究者(それに社会学と歴史学の専門家も参加している)が共同して現在進行している東アジア地域の西欧化・近代化・グローバル化の動向を分析整理して、21世紀にふさわしい国家像・社会像を提示しようとする意欲的なものである。加えて、メンバーの背景は、中国・韓国・マレーシア・フランス・日本と多彩である。このため、アプローチや使用する用語法の違いなどにより、相互理解が困難になる場合も生じた。それ故、研究会当初は、各メンバーが推薦する二冊の本を相互に読みあう、ジョセフ・ナイ著『ソフトパワー』の合評会を行うなどして討論を深め、共通な学際的基礎を確立することに努めた。この結果、研究会も活発になり、以下の二つのテーマに問題関心も集約してきた。
 一つは、「東アジア大学構想」である。ハーバード大学を先頭とする米国の大学に匹敵する超一流な質を持つ人文社会科学系大学の存在は、日本だけでなく、東アジア諸国にとって必須なものになっている。しかし、それを一国の枠組みで構想することには限界があり、簡単には米国の有名大学を凌駕することはできない。それ故、日・中・韓の主要大学・主要研究機関(北京大学、中国社会科学院、ソウル国立大学、高麗大学、東大・京大・慶応・早稲田等)が中心となって知的ネットワークを形成し、少なくとも東アジア地域の歴史・文学・哲学・政治・経済・社会・文化等に関する超一流の大学院・大学を作ろうという構想である。この構想は、「東アジア共同体」の知的な共通基盤を作る試みとしても注目を集めつつある。現在、具体的な協力関係を構築しつつあり、萌芽が出てきた段階である。
 二つ目は「東アジアにおけるソフトパワー」である。韓流のテレビドラマ、日本のマンガ・アニメ・TVゲームなどの「クール」なもの、中国の孔子学院の設立など、この地域には従来みられなかった国境を越えて共感や共鳴を生む文化現象が生じている。これらの現象は、単に文化活動や経済活動に限定されるものでなく、国のイメージを変えるまでの政治的な「パワー」の役割を果たすほどになっている。しかし、これらの現象を総合的かつ学術的に分析した業績は少なく、未開拓の学際的研究分野に留まっている。東アジアのソフトパワーの実態分析と将来にわたる提言を東アジアの研究者が共同して主体的に行う義務と責務があろう。また、この東アジアのソフトパワーの動きは、西欧化やグローバル化に対抗するカウンターカルチャーの側面も有しており、欧米とは異なるuniversality(普遍的なるもの)を追求している動きとしても注目したい。
 いずれの研究も端緒についたばかりであり、この研究会は2007年度・2008年度も継続して積極的に行っていく予定である。その成果の一端は、研究会の体系的な形ではないが、主要なメンバーが執筆・参加した「ワセダアジアレビューNo1」(2007年4月、日経BP企画)、「ワセダアジアレビューNo.2」(2007年8月、日経BP企画)に掲載してある。また、2007年10月15日16日には早稲田大学国際会議場で「東アジア共同体をめざして」という国際シンポジュウムも開催された。最終的には本研究会の成果として2009年初頭にメンバーが執筆する単行本を出版するつもりで、鋭意研究を続けている。

(敬称略)

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