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研究助成

成果報告

2006年度

21世紀のジェンダー政策と文化
― 少子高齢社会への日独伊の対応と課題

京都大学大学院文学研究科教授
伊藤 公雄

 1989年、いわゆる1・57ショック(合計特殊出生率の減少)以後、少子化という課題は、日本社会において大きな注目を集めるようになった。と同時に、日本は、今後、人類が経験したこともない高齢社会に直面するともいわれてきた。本研究は、こうした少子高齢社会としての日本社会のかかえる問題を、ドイツ、イタリアという、少子高齢という点で、日本とよく似た状況におかれている二つの社会との比較のなかで考察しようとするものである。
 すでに1990年代後半、本プロジェクトの研究代表者である伊藤公雄は、少子高齢社会の深化という点において、経済の発達した諸国のなかで、日独伊の旧枢軸国が際立っていることを指摘してきた(これに加えてスペイン、ポルトガル、ギリシアといった戦前から戦後にかけて全体主義体制の下にあった国々もまた、少子化が目立つということにも注目する必要がある)。
 この日独伊共通の課題の歴史文化的背景をめぐって、本研究プロジェクトは、まず、比較ファシズム論的関心から、イタリア・ファシズム、ドイツ・ナチズム、さらに日本の天皇制ファシズム下のジェンダー文化(政策的に徹底して行なわれた「女性は家庭へ」というジェンダー化の推進)と家族・人口政策の相似性について検討を加えた。
 その上で、戦後社会における家族と人口政策(憲法によって家族を社会の基本と定めたイタリアは、1970年代から積極的に家族支援策を進めたが、ジェンダー平等への関心は薄かった。また、独伊両国ともに、人口をめぐって家族へ行政的な介入をすることには、戦前の全体主義を想起させるため、積極的に進めることはなかった)についてのそれぞれの諸国の動向とともに、1970年代以後の女性問題の時代開始以後の状況(日独伊の3国が、他の国と比べて、各種データ上からも「性別役割分業」の構造を存続させ続けてきたことは明らかである)や、労働・教育・家族をめぐる動き(ドイツは労働時間の規制などによるワーク・ライフ・バランスの仕組みを相対的に早い段階で生み出した。イタリアは強い労働組合によって労働者の保護は確保されたが、不況とグローバル化のなかで労働のフレキシビリテイが弱められる傾向にある。また両国ともに、初等教育における授業時間が昼までであり、就学児童のいる家庭においては、母親たちは昼まで就業の職業を選択するか、専業主婦を選ぶかしかない状況におかれてきた。これと関連することだが、独伊両国は保育所の整備が日本よりもはるかに未成熟である)についても、考察を加えることができた。
 しかし、現在、独伊両国は、EU統合を契機として、ジェンダー主流化の動きを強めつつある。また、欧州では、これまで必ずしも積極的に展開されてこなかった家族政策が、新たにジェンダー公正を基礎とした形で独伊も含めて進められようとしている。少子高齢という点において、また、ジェンダー文化という面で共通点の多い独伊の動きは、日本社会の今後の方向性を考える上で、多くの重要なヒントを投げかけてくれると考えられる。
 なお、本研究の成果は、2008年春、明石書店より書籍として刊行される予定である。

(敬称略)

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