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研究助成

成果報告

2004年度

歴史的緑地の市民参加による管理運営に関する研究

特定非営利活動法人社叢学会副理事長
菅沼 孝之

1. 調査の目的と手法
 本調査は、都市において多様な意義を有する鎮守の森など歴史的緑地について、地域コミュニティと維持管理の関係を把握するとともに、公的関与(法規制、条例による補助等)の実態を調査し、今後の維持管理方策を検討するものである。
 調査対象は、歴史的緑地の保全に対して一定の公的関与がなされてきた名古屋市に着目し、森を有する38の神社を対象としたアンケート調査と、事例のヒアリング調査を行った。

2. アンケート調査による歴史的緑地の維持管理の実態
 アンケート対象とした歴史的緑地では、地域住民(氏子)の維持管理への参加は少なく主に神職や業者が担っている場合が多かったが、地域住民の正月の参拝、日常の散歩、祭りへの参加、子供などの学習の場として関わりが多く見られた。
 維持管理の問題は、近隣との関係の中で樹木を伐採せざるを得ない場合や、維持管理を担う人が少なくなっているとするものが多く、また、歴史的緑地を市街地内で維持する財政的な課題が多く見られた。
 維持管理における公的支援については、対象地の多くで保存樹指定や緑地保全地区制度が適用されているものの維持管理面の支援は少なく、地域住民が関わる維持管理活動への支援があれば検討を考えてみたいという意見が見られた。

3. 事例調査と歴史的緑地の維持管理方策の検討
 公的制度も活用して緑被面積を維持している歴史的緑地を対象としたヒアリング調査では、主な問題として、地域住民がまちの資源として歴史的緑地を活用したいとしながらも落ち葉等への理解と維持管理への協力が少ないこと、法規制等が適用されても維持管理への支援が十分でないことがあげられた。さらに、行政的な対応において、防災の面で危険地域に指定しながら、一方で避難場所に指定するなど、縦割り行政の弊害が見られた。
 まちの資源としての緑地を行政的にも守っていくという点からは、例えば緑地保全地区に指定した場合には、近隣にも樹林の影響があるので協力要請をするような条例等を設けていくなど、総合的なまちづくりの視点での対応が必要であると考えられた。

4. まとめと課題
 歴史的緑地の維持管理の実態調査から、現状のままで維持管理が行われるならば、都市の歴史的緑地はますます荒廃化していくことが危惧される。
 このため、今後の管理運営には、日常的に歴史的緑地の恩恵を受ける地域住民の維持管理への参加を促すとともに、地域住民の歴史的緑地を守る意識を醸成するような取り組みが必要である。ただし、神社など所有者のみで対応していくことは難しいことが明らかになっており、土地所有者、住民、行政等が一体となった総合的な取り組みを進める中で、諸学の垣根を越えてまちづくりの視点を持って、良好な都市緑地と生態系の保護、地域社会との継続的なつながりからの管理運営方策の検討が望まれる。

(敬称略)

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