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サントリー学芸賞

受賞のことば

政治・経済2019年受賞

善教 将大(ぜんきょう まさひろ)

『維新支持の分析―ポピュリズムか,有権者の合理性か』

(有斐閣)

1982年生まれ。
立命館大学大学院政策科学研究科博士課程後期課程修了。博士(政策科学)。
ひょうご震災記念21世紀研究機構研究調査本部主任研究員、東北大学国際高等研究教育機構学際科学フロンティア研究所特別研究員(助教)などを経て、現在、関西学院大学法学部政治学科准教授。
著書 『日本における政治への信頼と不信』(木鐸社)、『市民社会論』(共著、法律文化社)など

『維新支持の分析―ポピュリズムか,有権者の合理性か』

 この度はサントリー学芸賞という栄誉ある賞を賜ることとなり、大変光栄に存じます。
 本書の出発点となったのはある発見でした。2011年10月、私は政治変動の最中にある有権者の意思決定過程を資料として残そうと考え、大阪市長・府知事ダブル選後に少数の大阪市民を対象とする意識調査を実施しました。当初はポピュリズム論を支持するような結果が得られるだろうと考えていましたが、蓋を開けるとそこにあったのは、ポピュリストへの熱狂的な支持ではなく、むしろ客観的に大阪の政治を観察し維新を選択しているという印象を抱いてしまうような、有権者の実態でした。
 維新の研究を進めていくにつれて、この印象は確信へと変わっていきました。決定打となったのは2015年5月に行われた特別区設置住民投票の結果です。維新の強い大阪市で行われたにもかかわらず、住民投票の結果は反対多数となりました。ポピュリズム論ではこの維新の「失敗」をほとんど説明できません。維新の「成功」と「失敗」を整合的に説明するにはどうすればよいか。この問題意識に基づき執筆したのが本書でした。
 本書の主張は、有権者を合理的な意思決定主体と捉えることで、維新政治をめぐる2つの謎を解明できるというものです。市域を超えた「大阪」の代表者としての価値が付与された政党ラベルを手がかりに、効率的に自身の選好に近い候補者ないし政党を選択すること。都構想に関する情報が錯綜する中、維新支持者に内在する批判的志向性が賛成への投票を一歩踏み留まらせたこと。維新の「成功」と「失敗」はこのような大阪の人びとの合理的な意思決定の帰結であったことを、本書では、意識調査やサーベイ実験の分析を通じて実証的に明らかにしました。
 本書の執筆を通じて、実証分析に基づく政治行動研究は現実政治を理解する一助になることを改めて確信しました。2011年に行なった調査から得られた知見は多くの識者の見解とは異なるものでした。しかし有権者の実態を的確に捉えていたのは、むしろこの調査結果の方でした。通説を覆す謎を発見する喜びと、実態を解明していくことの面白さがあったからこそ、私は維新支持の実証研究を続けることができたのだと思います。
 維新支持の研究は本書をもって一つの区切りとなりますが、他方で維新は今もなお、大阪での一大政治勢力であり続けています。本書が明らかにしたのは、維新を支える有権者の意思決定過程の一端に過ぎません。引き続き維新をめぐる政治意識や政治行動の実証研究を行いつつ、さらに広く代議制を機能させるための諸条件を明らかにするような研究を行うよう、精進して参ります。

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