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サントリー学芸賞

選評

政治・経済2019年受賞

善教 将大(ぜんきょう まさひろ)

『維新支持の分析―ポピュリズムか,有権者の合理性か』

(有斐閣)

1982年生まれ。
立命館大学大学院政策科学研究科博士課程後期課程修了。博士(政策科学)。
ひょうご震災記念21世紀研究機構研究調査本部主任研究員、東北大学国際高等研究教育機構学際科学フロンティア研究所特別研究員(助教)などを経て、現在、関西学院大学法学部政治学科准教授。
著書 『日本における政治への信頼と不信』(木鐸社)、『市民社会論』(共著、法律文化社)など

『維新支持の分析―ポピュリズムか,有権者の合理性か』

 日本の地方政治は、国政とは異なるダイナミクスを持つ。首長と議会が別々に公選される二元代表制、地域ごとの社会経済環境の違いなどが作用するためである。しかし長らくそれは、国政と同じ政党が、異なった勢力関係や提携関係の下で活動するという形をとってきた。1970年代に隆盛を迎えた革新自治体は、その典型であった。
 ところが21世紀に入って、地方政治の独自性は地域政党の台頭という形で現れる例が目立ち始めた。その萌芽は1990年代以降の無党派首長の増大にあると思われるが、近年では首長が自らを支持する勢力を議会にも広げ、地域政党として活動するようになった。
 この新しい現象に対して、政治報道と多くの政治学研究は、正鵠を射た理解を与えてきたとは言い難い。東京から遠く離れた場所にしか拠点がなく、その地域でのみ重視される政策課題に対応しようとする地域政党は、地方分権を唱えつつ実際には国政中心、東京中心に築かれてきた従来の政党政治像に、うまく当てはまらないからである。
 2010年に登場した「大阪維新の会」(維新)は、そのような地域政党の代表格だといえるだろう。維新に対しては、創設者である橋下徹氏の強い個性と指導力が印象的であるとともに、虚実ないまぜの主張によって大阪の人々を騙し、体系的な政策もないまま短期間に躍進したポピュリスト政党である、という見方が今なお根強い。
 善教将大氏の著作『維新支持の分析』は、維新がなぜ大阪で多くの有権者に支持されているのか、という問いを解くことで、ポピュリスト政党としての維新、それを支持する非合理的な有権者という広く流布した見解に正面から挑み、説得的に反駁した力作である。多くの人々が関心を寄せながら、その実像が掴み切れていない事柄を学術的に分析することは、政治学の最も重要な役割の1つであり、本書はそれを鮮やかに果たしたといえる。
 その際に善教氏が用いるのは、有権者を対象としたサーヴェイ実験や、その結果についての緻密な計量分析である。これらは政治参加や投票行動の研究において主要な手法になりつつあるが、先端的であるだけに、ともすれば専門家にのみ分かる議論に終始してしまいやすい。本書は分析結果の図示などに工夫を凝らすことで、専門家以外の読者にも学術的知見を伝える努力が丁寧になされている。
 もちろん、維新を含む地域政党や、ポピュリストとされる政党の全体像を描き出す上では、なお解明すべき課題も残されている。たとえば、本書においては政党(エリート)側が戦略的に行動して有権者を誘導した可能性は十分に検討し切れていないし、ポピュリズムの定義には議論の余地がある。維新以外の政党に適用できる知見かどうかについて、本書の主張に同意しない読者もいるであろう。
 こうした疑問は、いずれも対象の重要性と大きさゆえに生じる。地域政党、ポピュリスト政党の台頭は先進各国に共通する現象でもあり、国際的にも研究が進んでいくはずである。善教氏には、それらも十分に踏まえつつ、多くの人々に学術的分析の意義を伝える役割を担っていただけるものと確信している。

待鳥 聡史(京都大学教授)評

(所属・役職等は受賞時のもの、敬称略)

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