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サントリー学芸賞

選評

社会・風俗 1979年受賞

福田 紀一(ふくだ きいち)

『おやじの国史とむすこの日本史』

(中央公論社)

1930年、大阪市生まれ。
京都大学文学部(美学美術史専攻)卒業。
現在、大阪明星学園教諭。
著書:『ホヤわが心の朝』(新潮社)、『霧に沈む戦艦未来の域』(河出書房新社)、『日本やたけた精神史』(文研出版)。他に少年少女向きの『一寸法師の日本探検』など。

『おやじの国史とむすこの日本史』

 候補作品としてあげられたものはどれも面白く、選考委員の間でどれをいれても遜色がない、という意見さえきかれた。私もほぼ同意見だったが、しかし私自身はその中でも福田紀一氏の『おやじの国史とむすこの日本史』をつよく推した。何よりもその切り口の鮮やかさとユニークさが、この部門における選考対象作品中、群をぬいており、近来の快著と思ったからである。
 教育、それも歴史教育に関する著作が、「社会・風俗」部門の受賞対象になるのか、という点で、疑義をはさむむきがあるかも知れないが、しかし、高校における歴史教育というものを、時代とともに動く「社会・風俗」のアングルからとらえた所に、この著作の視点の鮮かさがあると思う。歴史といい、教育といい、それぞれ単独に論ずれば、専門家の間に深刻な論議があり、頭の痛い混迷があろう。しかし、「大学受験」と「次代を荷う青年への、民族としての歴史知識の授受」という責任の間に板ばさみになっている現場教師のもう一つの深刻さを、冷静に、かつあたたかく提言したのは、この作品がはじめてであろう。中学高校で教えられる歴史のスタンダードの変遷と、大学入試の出題傾向の「流行」の変遷を見れば、これは時代とともにうつりかわる「社会・風俗」のそれもかなり深刻なアスペクトではないか?――風俗の中に、鋭い知的切りこみがまたれている重大な問題がある、という事をあらためていいたいために、福田氏の作を推した次第である。

小松 左京(作家)評

(所属・役職等は受賞時のもの、敬称略)

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