活動詳細
茨城県 利根町 2026年受賞
利根地固め唄保存会
仕事唄の伝承を通じて治水の歴史を後世に伝え、防災教育にも貢献
受賞時代表:石山 肖子 氏
2026年10月更新
茨城県南部の利根町は、利根川を挟んで千葉県と接する水辺の町。江戸時代に始まった、利根川の流れを江戸から銚子方面に変える「東遷(とうせん)」事業の拠点の一つだった。利根川東遷事業は、江戸を水害から守り、流域の新田開発を行い、江戸と東北を結ぶ水運開発に大きな役割を果たした。利根町では現在、河川工事で歌われていた仕事唄「利根地固め唄」を伝承する活動が行われている。
利根地固め唄は、作業員が動作のタイミングをそろえ、仕事の疲労を忘れるためのもので、「土羽打ち唄」、「石ダコ打ち唄」、「杭打ち唄」という三種類に分類できる。土羽打ちは細い丸太で土手の法面をたたいて固める作業。石ダコ打ちは石臼状の石に八本の綱をつけて上下させることで土を固める。杭打ちは大きな三脚を立てて杭を打ち込むもので、それぞれの唄に合わせて作業を行う。
1950年頃まで河川工事はほぼ人力だったがその後は機械化が進み、地固め唄も次第に忘れられていった。1985年に茨城県で民謡の調査が行われた際に、利根町には地固め唄が数多く残っていることがわかった。貴重な唄を継承するため、1989年、有志によって「利根地固め唄保存会」が発足した。保存会では町と協力して、流域に残る唄を調査するとともに、河川工事経験者から所作を学んで復元し、さらに歴史資料の整理にも取り組んだ。利根町に伝わる唄の中には、岐阜や岡山から伝わったとされるものもあり、遠方の人々も工事にかかわっていたことがうかがえる。
現在、保存会では毎月例会を開催し、地固め唄の伝承に努めている。毎年3月に利根川沿いの町役場で行われる「利根町さくらまつり」で実演を行うほか、依頼があれば県内外でのイベントに出演する。視察研修旅行も企画し、各地の治水の歴史や地固め作業について学ぶ機会を設けている。
1996年に利根地固め唄が町の無形文化財に指定され、この年から保存会による地固め唄の指導が地元小学校で始まった。さらに、2002年には茨城県の無形民俗文化財に指定された。当初は町内に五つある小学校のうちの一校での指導だったが、小学校が一つに統合された現在は、町の全児童が地固め唄を学ぶようになった。授業では唄や所作の習得だけでなく、利根川の治水や洪水の歴史も学ぶため、郷土への理解を深め、防災意識を高める機会にもなっている。
江戸の繁栄を支えた利根川の治水は、教科書に載るような歴史上の有名人が数多くかかわっているが、工事に駆り出された無名の人々が歌い継いだ仕事唄の記録は少ない。利根地固め唄保存会の活動によって、工事を支えた人々の唄を後世に残し、地域の歴史とともに次世代に歌い継がれていくことが期待されている。




