活動詳細
秋田県 仙北市 2026年受賞
上桧木内の紙風船上げ
巨大紙風船の制作と打ち上げを通じて、地域の絆を深める真冬の伝統行事
受賞時代表:阿部 明雄 氏
2026年10月更新
秋田県仙北市の山間にある上桧木内地区では毎年2月10日、灯のともされた巨大紙風船が打ち上げられる。雪の降りしきるなか、夕方から夜にかけ約80個の紙風船が空に舞う。願い事や色とりどりの絵が描かれた高さ約5~8メートルの紙風船は、全て手作りだ。
上桧木内の紙風船上げは、江戸時代、銅山の技術指導に訪れた平賀源内が上桧木内に滞在した際に熱気球の原理を応用した遊びとして伝えたとされている。古くから地域で親しまれてきたこの行事は太平洋戦争で途絶えていたが、1970年代半ばに住民の熱意により一つの集落で復活。数年後には上桧木内の全8集落で再び行われるようになった。当初は集落ごとに打ち上げていたが、1987年からは全集落が一堂に会して行うようになり、今では多くの観光客が訪れる秋田県を代表する冬の風物詩となっている。
紙風船の制作が各集落で本格的に始まるのは毎年12月頃。紙の裁断・貼り合わせから、絵柄の選定、下絵描きや色塗りに至るまで、住民たちが協力して行う。各集落で作る紙風船は毎年5~10個ほど。一つの紙風船は、縦5~8メートル、横3~4メートルほどの長方形の紙を4面貼り合わせて出来上がる。最も大変な作業は絵付けで、大きな紙いっぱいに「五穀豊穣」「無病息災」といった願い事や、武者絵や美人画、その年を象徴する絵柄などを、色塗りと乾燥を繰り返しながら、時間をかけて仕上げていく。
紙風船の制作は真冬の時期と重なる。豪雪のなか週に1~2回、子どもから年配者まで数人~10人ほどが各集落会館に集う。帰省した若者が参加することもある。住民たちにとって、紙風船制作のために集まり、おしゃべりをしたり、飲食をともにしたりすることは冬の楽しみの一つであり、大切なコミュニケーションの場となっている。
地域でかけがえのないこの行事は、ときに困難のなかでも続けられてきた。2021、2022年はコロナ禍で2月10日のイベントが中止となったが、2022年には住民有志で数個ながら紙風船上げを行った。2025年夏の豪雨では田畑や民家、紙風船の打ち上げ会場や制作会場も浸水による大きな被害を受けたが、支えてくれた人たちに紙風船を通じて感謝を伝えたい、地域を盛り上げたい、という思いで住民たちは結束し、開催にこぎつけた。また近年、人口減少により紙風船に携わる人が減っているなか、地区外からの制作希望者を積極的に受け入れるなど、担い手を広げる工夫にも取り組む。
「紙風船を上げたい」という住民たちの思いが、上桧木内の紙風船上げの原動力となっている。人々の心をつなぐ大きな紙風船は、これからも真冬の上桧木内を温かく照らし続ける。




