活動詳細
北海道 平取町 2026年受賞
FMピパウシ
ラジオ放送を通じて、アイヌ語やアイヌ文化を発信するミニFM局
受賞時代表:萱野 志朗 氏
2026年10月更新
北海道南西部、日高地方に位置する平取町二風谷は、アイヌの伝統が受け継がれる地域として知られ、アイヌ語の普及活動、木彫刻や刺繍の制作、舞踊、民具の保存継承、町内の子どもたちへの教育普及、アイヌ文化伝承者の育成など、多様な活動が行われている。この地で、アイヌ語やアイヌ文化について発信するラジオ局がある。
二風谷出身の萱野茂氏は、長年アイヌ文化の継承に尽力する中で、海外の先住民族が自らの母語で放送するラジオ局の存在を知り、感銘を受けた。「日本にもアイヌ民族が発信するラジオ局をつくりたい」と決意し、2001年にミニFM放送局「FMピパウシ」を開局した。「ピパウシ」は地元の地名に由来し、アイヌ語で「カラスガイがたくさんいる所」を意味する。
初回の放送で、茂氏はマイクに向けて語り掛けた。――ネユン ポカ アイヌイタㇰ ヤイカッチピ、ケサンニヨ コㇿ(アイヌ語が生きた言葉として蘇ることを心から願う)。伝統が急速に失われゆく中、ラジオを通じてアイヌ語を復興する試みが始まった。放送は毎月1回、第2日曜日の午前11時から1時間行われている。内容はアイヌ関連のニュースや書籍の紹介、アイヌ語講座、アイヌ文化にかかわる人へのインタビュー、過去に録音された古老のアイヌ語音声の紹介から地元のニュースまで多岐にわたる。
微弱電波を使用する「ミニFM」の送信システムで放送するため、直接放送を受信できるのはスタジオから半径200m程度だが、開局当初より番組の録音データをインターネットでも公開している。ラジオ番組の録音データをインターネットで発信する取り組みは、当時としては画期的であった。300回以上にのぼる番組アーカイブは、アイヌ語、アイヌ文化、平取・二風谷地域に関する貴重な蓄積となっている。
茂氏が2006年に逝去すると、開局当初から活動に参加していた息子の志朗氏が引き継いだ。現在運営を担うメンバーは、会社員、公務員、学芸員、教員やアイヌ語講師などの立場から、アイヌ文化にかかわる地元住民たち。二風谷に生まれ育った人もいれば、道外から移住してきた人もいる。FMピパウシには、こうしたメンバーやゲストを介してアイヌ文化に関する様々な知識や経験が集まる。そしてラジオで得た知見を各自のフィールドに持ち帰るという循環が生まれており、平取・二風谷のアイヌ文化にまつわる多様な人と情報の交流拠点となっている。
近年では、アイヌ語を話せる若い世代が育っており、「アイヌ語を生きた言葉として蘇らせる」という茂氏の願いが実現しつつあると志朗氏は語る。人々がアイヌ語で語り、発信し、次の世代へアイヌ文化を受け継ぐこと。それがFMピパウシの変わらぬ願いである。二風谷の小さな放送局は、これからも世界に向けてアイヌの声を届け続けるだろう。




