活動詳細
大分県 大分市 2025年受賞
大分圏清掃整理促進運動会
毎月10日のトイレ清掃パフォーマンスで地域の日常とアートをつなげる
代表:八坂 千景 氏
2025年10月更新
毎月10日の朝7時、大分市内の公衆トイレに白衣にマスク・腕章姿の集団が現れる。ラジオ体操のあと、無言で怪しく執拗にトイレを掃除したかと思えば、真面目な表情とおどけた表情の集合写真を2枚撮影し、何事もなかったように去っていく。トイレ掃除のプロではない市民による月に一度の“無駄な入念清掃パフォーマンス”。一見すると奇妙なこの光景が、10年以上にわたり大分の日常の一部となっている。
きっかけは2015年に大分市の主催事業として行われた「おおいたトイレンナーレ」。3年に1度の美術展「トリエンナーレ」と「トイレ」を掛け合わせた造語で、トイレにまつわるアートが街を飾り、市民参加型の多彩な企画が展開された。そのなかで、アーティストではない実行委員が「自分たちも何かしたい」と前年から始めたのが大分圏清掃整理促進運動会である。着想は、大分にゆかりのある前衛美術家・赤瀬川原平が銀座の路上を白衣姿で清掃するパフォーマンスを通じて、過剰な美化意識を風刺した「首都圏清掃整理促進運動」から得ている。
「おおいたトイレンナーレ」終了後は新たなメンバーも加わり、現在は20代から80代まで、職業も背景も異なる15名が市内各所の公衆トイレで清掃パフォーマンスを行っている。彼らにとってトイレをきれいにすることは目的ではない。街や公共施設を利用する人、日々清掃に携わる人への想像力を広げる手段であり、感性を磨く作業である。赤瀬川のパフォーマンスが社会への皮肉を込めたものだったのに対し、大分圏清掃整理促進運動会のパフォーマンスはトイレを掃除する人への気づきと感謝につながっている。
そんな彼らの活動に、新たな展開が見られる。2025年9~11月に市中心部の竹町アーケード西側で主催する「たけにしトイレンナーレ」である。トイレ空間を活用したアート作品の展示、大分のアートや文化に触れる市民講座などを通じて、彼らの原点でもある「おおいたトイレンナーレ」からの10年で何が変わったのかを問い直す。
身近でありながら話題にしづらいトイレと、ともすれば不要なものとして切り捨てられることもあるアート。しかし、どちらも人が人らしく生きていくために欠かせないという思いのもと、彼らの試みは街を舞台に繰り広げられている。何気ない日常に清掃パフォーマンスを通じてアートを食い込ませた10年あまり。そこにトイレンナーレの復活が加わり、街をより楽しむ仕組みが再び整った。
「意味はないけれど、意義はある」。自らの活動をそう語る大分圏清掃整理促進運動会の存在は、大分市の街の風景を変え、大分市民の街の見方を変えていくであろう。




