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サントリー地域文化賞 サントリー地域文化賞

活動詳細

石川県

石川県 輪島市 2025年受賞

御陣乗太鼓保存会
地域に深く根付き、住民の誇りと希望であり続ける郷土芸能を継承

代表:槌谷 博之 氏

2025年10月更新

活動紹介動画(02:00)
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御陣乗太鼓保存会

 日本海に面した石川県輪島市名舟町には、この土地の人々によって400年以上にわたり受け継がれてきた郷土芸能「御陣乗太鼓」がある。

 1576年、上杉謙信が能登半島へ侵攻した際に、名舟村の住人たちは木でつくった仮面と海藻の頭髪を身に着け、太鼓を打ち鳴らし上杉勢を退散させた。この勝利を氏神に感謝するために、毎年7月31日、8月1日に「名舟大祭」を行い、太鼓を奉納する習わしとなった。これが御陣乗太鼓の始まりとされる。

 御陣乗太鼓では、夜叉や幽霊などの面をつけた6人の打ち手が代わる代わる一つの太鼓を打ち鳴らす。細かな振り付けはなく、独特のリズムと、「見る人の魂を震わせるように叩く」ことだけが決まり事だ。雄叫びを上げながら激しく太鼓を叩くため、演技後は息が切れ手が痺れて動かなくなることもある。打ち手をつとめるのは名舟町に生まれ育った男性たち。子どもたちは幼い頃から太鼓を叩く大人の姿を目にし、小学校へ入学すると年上の打ち手に教わりながら、御陣乗太鼓のリズムを身体にしみこませていくという。

 村の神事として太鼓は受け継がれ、1960年には「御陣乗太鼓保存会」を結成。以降、観光客向けの公演にも力を入れてきた。保存会結成当時は、多くの観光客が能登を訪れた「能登ブーム」の時期。地元の宿泊施設で毎晩太鼓を披露し、多い時には年間3,000回以上の公演を行ったという。打ち手である保存会メンバーは、昼は会社員、農家、漁師、輪島塗職人などとして働き、仕事が終わると観光客に向けて太鼓を披露した。こうした地元での公演が評判を呼び、全国放送のテレビ番組に出演したことも経て、御陣乗太鼓は能登を代表する郷土芸能として広く知られることとなる。

 しかし、2024年1月1日の能登半島地震により、名舟町も甚大な被害を受けた。建物の多くが損壊し、名舟大祭を行う神社や鳥居は全壊。毎晩太鼓を披露していた宿泊施設なども休業となった。町は一時封鎖となり、およそ60世帯・160人が町外へと避難した。

 震災後、能登での公演の場を失った保存会に、全国から出演依頼が相次いだ。メンバーたちは、奇跡的に被害を免れた太鼓と面を携えて、全国を飛び回り太鼓を叩き続けている。県外公演では「昔、能登で御陣乗太鼓を見たことをよく覚えています」と話しかけてくれる人も多いという。過去、そして現在の保存会の活動が、能登と全国をつなぐ架け橋となっている。

 いまだ町外での避難生活を続けるメンバーもいる中、願うのは「また地元で太鼓を叩く」こと。名舟町の人々にとって御陣乗太鼓は生活の一部だ。震災を越えて、太鼓の音が再び能登の夜に響くことを多くの人々が待ち望んでいる。

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