活動詳細
富山県 高岡市 2022年受賞
弥栄節保存会
高岡鋳物の文化を伝える民謡を、時代に合わせてアレンジしながら継承
代表:藤田 益一 氏
2022年10月更新
高岡の町は今から400年ほど前、加賀前田家二代目当主の利(とし)長(なが)によって開かれた。その際、利長が産業振興の拠点と位置付けて鋳物師を住まわせ厚い保護を与えたのが、金屋町(かなやまち)と呼ばれる一画である。「高岡鋳物」の産地として大いに栄え長年にわたって高岡の発展に貢献してきたこの地域には、軒先の千本格子が印象的な風情ある街並みが今も残り、国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定されている。
金屋町では毎年6月、利長の命日にその遺徳を偲ぶ祭り「御印(ごいん)祭(さい)」が催される。そこで披露されるのがこの町に伝わる民謡「弥栄節(やがえぶし)」で、前夜祭では町の目抜き通りを踊りながら練り歩く「町流し」が、本祭では利長の墓前で「奉納踊り」が行われる。町の住民にとってこの民謡は「囃子が聞こえてくると自然に体が動き出す」ほどなじみが深いという。
弥栄節は作業唄をルーツとする。高岡鋳物づくりの現場で夜通し行われた過酷な作業、「たたら踏み」のさなかに、疲れる心身を元気づけ仲間と息を合わせるために工員たちが唄った。大正末期、電化が進むなかで過酷な作業とともに一旦は姿を消したが、昭和に入り、地元産業を支えた唄の喪失を惜しむ有志の熱意で復活。
その後、1975年に弥栄節保存会が設立された。現在は、金屋町の自治会員全員が保存会の会員となって、唄と踊りを通じた地域住民の交流促進や、次世代育成を中心とした保存・継承活動を展開している。
御印祭の町流しには、金屋町をはじめ市内全域から約1,000人の踊り子が参加するほか、県内各地から見物客も多数集まり、交流を楽しむ。コロナ禍で御印祭が中止となった2020年・2021年も「リモート町流し」を行い、オンラインでつながった地域住民が心を一つにして弥栄節を踊ったという。次世代育成の活動としては、小・中学生への指導や、保育士・教諭らを対象とした講習会、指導用映像資料の作成・寄贈などを行っている。地域の小・中学生が運動会や文化祭で踊りを披露する様子は、この地域の恒例となっている。さらに、「子どもたちにも唄いやすくしてほしい」「琴を使って演奏したい」といったリクエストに応えてアレンジを施すなど、この歴史ある民謡は今も様々に形を変えつつ大切に継承されている。
保存会会長の藤田益一氏は「『弥栄節』は、高岡の町の歴史・産業と密接にかかわっている民謡。この文化を守ることは、高岡の町を守ることと同じと考えている」と話す。高岡の繁栄を伝える唄として、弥栄節はこれからも末永く唄い継がれてゆくだろう。