活動詳細
北海道 函館市 2022年受賞
函館市民映画館シネマアイリス
映画製作を通して地元函館の日常に光をあて、市民とともに歩むミニシアター
代表:菅原 和博 氏
2022年10月更新
北海道函館市・五稜郭地区にある66席の小さな映画館「函館市民映画館シネマアイリス」は、映画上映を行う傍ら、地元に根差した映画製作を行っている。
1983年、函館で喫茶店を営んでいた菅原和博氏は、映画好きの知人と自主上映グループを結成。映画館や劇場、ライブハウスを利用し、地元では見ることが難しい映画を上映する活動を続けていた。しかし、1990年代前半に函館市内の映画館が次々と閉館。1993年、自主上映会場の一つであった老舗劇場・巴座が閉館したことをきっかけに、菅原氏らは映画館の立ち上げを目指すようになる。「一緒に映画館をつくりませんか」と呼びかけると、市民から約700万円の寄附が集まり、1996年に「函館市民映画館シネマアイリス」が開館した。
代表となった菅原氏は、映画は好きだが映画館の運営に関しては素人。手探りの運営を支えてくれたのは、映画好きの市民ボランティアだった。受付や事務仕事を担うボランティアスタッフは、今もシネマアイリスに欠かせない存在だ。
2008年、菅原氏はボランティアスタッフから一冊の本を薦められる。函館出身の作家、佐藤泰志(やすし)(1949-1990)の作品集だった。当時、佐藤作品の単行本は全て絶版となっており、地元でも知る人の少ない「忘れられた作家」であった。短編の連作『海炭市叙景(かいたんしじょけい)』には、函館をモデルとした架空の町「海炭市」を舞台に、衰退する地方都市やそこで生きる人々の苦しみが描かれていた。菅原氏は現実の函館に通じるものを感じ、「人生で一本だけ映画をつくるなら、この作品しかない」という想いを抱いたという。
映画化の道を模索する中、佐藤の同期生やファンと出会ったことが大きな力となった。彼らと共に実行委員会を立ち上げ、「市民発信の映画をつくろう」と活動するうちに協力してくれる市民の輪が広がった。そして、企画に賛同した熊切(くまきり)和嘉(かずよし)監督がメガホンを取り、2010年に映画『海炭市叙景』が公開。美しい街並みや夜景といった世間一般のイメージとは異なる、市民が暮らす町としての函館と、そこで生きる人々の姿を描いた同作は国内外で高い評価を得た。また、映画化をきっかけに佐藤作品が次々と復刊されるなど、同氏の再評価にも繋がった。
その後も、佐藤作品を原作としてオール函館ロケにこだわり、『海炭市叙景』を含めて5作品を映画化。いずれの作品も市民がキャストやエキストラとして出演する他、撮影時の炊き出し、ロケハンの情報提供や製作費の寄附など、市民に支えられた映画づくりを続けてきた。
「町の現実を映しながら、その地で生きていく意味を描くことが、町を愛することに繋がる」と話す菅原氏。シネマアイリスはこれからも函館の町と、そこに住む人々と共に歩み続けるだろう。




