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サントリー地域文化賞

活動詳細

関東

茨城県 2021年受賞

霞ケ浦の帆引船・帆引網漁法の保存活動
観光操業や調査を通じ、霞ケ浦のシンボル「帆引船・帆引網漁法」を伝承

代表:戸田 廣 氏

2021年9月更新

写真
霞ケ浦に浮かぶ三艘の帆引船

 帆引網漁法は、明治時代、霞ケ浦湖岸の坂村(現かすみがうら市)の住民によって発明された。帆桁と漁網を綱で直結し、帆が受ける風力と漁網にかかる水圧、および船の自重でバランスをとりながら航行して漁をする世界にも類を見ない漁法である。風力を利用して少人数で操業できることから地元漁師の間に広く浸透し、霞ケ浦のワカサギ漁・シラウオ漁が発展する重要なきっかけとなった。最盛期には900艘を超える帆引船が操業していたと言われており、風をはらんだ大きな帆がいくつも湖面に並ぶ様子は、明治から昭和にかけて霞ケ浦を代表する風景だった。

 1960年代後半、エンジンを積んだトロール船の台頭によって帆引船は姿を消したが、1970年代には慣れ親しんだ風景の消失を惜しむ声に応えて観光帆引船として復活。毎年夏から初冬にかけて行われる観光帆引船の定期操業は霞ケ浦の風物詩として地域住民に広く愛されており、その美しい姿と風景は筑波山と並ぶ地域のシンボルとなっている。

 現在、「霞ヶ浦帆引き船・帆引き網漁法保存会」(かすみがうら市)、「土浦帆曳船保存会」(土浦市)、「行方市帆引き船保存会」(行方市)が中心となって保存活動が行われており、観光帆引船の操業もこの3つの保存会が行っている。風向きや風力の変化に対する瞬時の対応など、帆引船の操業には高度な技術が求められることから、各保存会では長年にわたって、操船技術に関するマニュアルを作成するなど後継者育成・技術伝承に積極的に取り組んでいる。

 また、帆引船の特長である優雅な姿を活かしたPR活動も盛んに行われている。「霞ヶ浦帆引き船フォトコンテスト」は、毎年県内外から多数の応募作品が集まる名物コンテストで、開催回数は2021年で20回を数える。実物と同じ赤杉材を使って精巧に再現された「霞ヶ浦帆引き船模型」は、茨城県郷土工芸品に指定されており、模型船を組み立てる工作教室の参加者は地域の子供たちを中心に1500人以上にのぼる。

 近年は、学術的な記録・調査への取り組みも進んでいる。2018年に「霞ケ浦の帆引網漁の技術」が国選択無形民俗文化財に選ばれたことを受け、土浦市、かすみがうら市、行方市の三市による調査委員会が立ち上がった。現在、学識経験者や各保存会の会長らが委員となって、帆引網漁に関わる一連の技術を記録するとともに、そのメカニズムやモノ・人・知識などに関する調査を進めている。

 霞ケ浦で生まれ、長く地域住民に愛されてきた帆引船・帆引網漁法が、3つの保存会を中心に展開されている積極的な保存・伝承活動によって、今後も末永く霞ケ浦のシンボルとして愛され続けることを期待したい。

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