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サントリー地域文化賞

活動詳細

中部

新潟県 新発田市 2020年受賞

人形浄瑠璃「猿八座」
佐渡の「文弥人形」の魅力を国内外に伝え、その継承発展に尽力

代表:西橋 八郎兵衛 氏

2021年1月更新

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人形浄瑠璃「猿八座」

 古来より日本各地から人々が訪れ、多様な文化がもたらされた芸能の宝庫、新潟県佐渡島。この島には「文弥人形」と呼ばれる人形浄瑠璃が伝わる。17世紀に大坂の岡本文弥が創始した「文弥節」に合わせて人形を操ることがその由来で、佐渡島では明治から大正にかけて盛んに演じられた。最盛期には島内に約40の座が存在したが、社会や娯楽の変化とともに衰退の一途を辿る。終戦後には存続が危ぶまれたが、有志による保存活動が行われ、現在は約10座の文弥人形座が島内で活動を続ける。

 文楽などの人形浄瑠璃が三人で一体の人形を操作するのに対し、一体の人形を一人の遣い手が操ることが文弥人形の特徴である。1979年、当時大阪で文楽の人形遣いとして修業を積んでいた西橋八郎兵衛(にしはし はちろべえ)氏は、この一人遣いの人形芝居に惹かれ佐渡へと渡った。初めは文弥人形座に入門し人形の遣い方を学んだが、「文弥人形の伝統を引き継ぎながら、他の芸能の要素も含んだ芝居にも挑戦したい」との想いで、1995年に人形浄瑠璃の一座「猿八座」を立ち上げた。

 旗揚げ当初は佐渡島の猿八を拠点としていたが、2009年からは新発田市に稽古場を設け、現在は9名の座員が所属する。新潟県内を中心に年間約20回の公演を行い、2019年の「第34回国民文化祭・にいがた2019」では9公演を演じ、いずれも満員御礼の大盛況であった。また、1998年のイギリスを皮切りに、これまで6ヵ国で10回以上の海外公演を開催するなど、人形浄瑠璃の魅力を国内外に発信している。

 猿八座が力を入れているのが、古浄瑠璃の復活上演である。古浄瑠璃とは、義太夫節よりも古い時代に成立した浄瑠璃で、現在では上演が途絶えた演目も多い。台本は残りながら、誰も演じることができない「幻の浄瑠璃」を猿八座は現代に甦らせている。変体仮名で書かれた台本を元に、稽古で使う台本をつくることから始まり、節をつけ、ようやく人形を手に稽古を始めることができるのである。これまでに復活上演した演目は7本で、「越後國柏崎 弘知法印御伝記(えちごのくにかしわざき こうちほういんごでんき)」や「山椒太夫」など地元新潟にゆかりの物語も含まれる。

 古い時代の作品ではあるが、「現代の人々にとって面白い舞台にしたい」と試行錯誤は欠かさない。文弥人形を使いながらも、文楽の振り付けや長唄の節なども取り入れるなど、新しい人形浄瑠璃の可能性を探っている。座長の西橋氏は、「人形浄瑠璃は堅苦しいイメージがあるが、本来は気軽に楽しむ芸能だった。文弥人形を博物館に展示するのではなく、芸とともに地域に伝えていきたい」と語る。

 郷土に伝わる芸能を受け継ぎながら新たな挑戦を続ける猿八座の芝居は、これからも多くの人々を魅了するだろう。

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