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サントリー地域文化賞

活動詳細

近畿

奈良県 上北山村 2017年受賞

河合弓引き行事保存会
山深い秘境の地の歴史を伝える弓引き行事を純朴に保存継承

代表:山室 潔氏

2017年10月更新

活動紹介動画(01:59)
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 上北山村は奈良県南東部の山奥、日本百名山のひとつでもある大台ケ原山の麓にあり、最寄り駅から車で1時間程度かかる「秘境」と呼ばれる村である。人口は約500名。かつて、平家の一族がこの地に逃れ住み、その子孫たちが再興を願い、弓の練武を続けたことに起因し、徳川の時代に八日薬師の行事として1月8日に弓引きを行ったことが行事の始めとされている。正式な資料は残っておらず、全て口伝により古来のしきたりに則って行われ、現在に至っている。
 この弓引き行事の特徴は弓引きを行う矢場や、的、弓を全て住民が手作りで行う点である。準備は保存会メンバーだけでなく、地区の住民たちが協力して行う。前日に行う「的踏み」では、杉の板を薄くはぎ、網目状に編んで1.8mの的を作り上げる。的に円を描く墨は柳の木を焼いて作る。弓は桃の木でつくり、弦はタクという木の皮を剥いで作る。このように毎年全ての道具を手作りで行うのが昔からの伝統である。
 弓引き行事が行われる河合地区には「年預」という役があり一年のあらゆる行事を仕切る。弓引きの際にはこの年預が祭りの世話役である「頭屋」となる。頭屋は年預としての最後の大仕事となっている。
 弓を射る「射手」は、1月2日の「矢始め」から7日までの6日間、毎日練習に励む。射手には役回りがあり、禰宜⇒上殿⇒下殿⇒射返しと4年かけて順番に担当する。禰宜は中学生になる男子が務め、射手を4年間続けるとようやく一人前として周りに認められるようになる。
 当日は、頭屋と射手は早朝に川で身を清め、氏神様を参拝したあと、頭屋の家に行き、集まった頭屋の親戚や関係者と一緒に宴会を行う。宴会を終えると衣装を整え、弓引き行事へと向かう。弓引きの方法は全て決まっており、まずは射返しが最初に2本射る。その後、禰宜、上殿、下殿が2本ずつ順番を変えながら、全部で3回ずつ矢を打つと終了となる。的は矢が当たると墨が飛び散るようにできており、これを「墨落とし」と呼び、縁起の良いものとされている。
 近年、過疎化により、射手の担い手が減ってきている。このため、隣町の子どもたちに参加してもらったり、地区を離れた若者を呼び寄せたり、村外からも募集するなど、行事を継続できるように様々な方法を検討している。また、観客に実際に弓引きを体験してもらったり、ツアーを企画したりと、外部の人にも興味を持ってもらえるような努力も始めた。「悪魔降伏・五穀豊穣」を目的に長年続けてきたこの行事を途絶えさせないために、形は多少変わったとしても継続していくことが、村にいる人たちの願いであり、使命である。

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