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サントリー地域文化賞

活動詳細

四国

徳島県 鳴門市 2016年受賞

鳴門「第九」を歌う会
アジア初演の地として全国の愛好家と共に「第九」を歌い継ぐ

代表:大塚道子 氏

2016年10月更新

活動紹介動画(01:50)
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写真
第35回ベートーヴェン第九交響曲演奏会
(2016年6月5日)

 年の瀬に日本各地で盛んに演奏されるベートーヴェン作曲の交響曲第9番。この「第九」が日本で、そしてアジアで初めて演奏されたのは1918年6月1日、徳島県鳴門市においてであった。合唱付きで全楽章を演奏したのは、鳴門市の板東俘虜収容所にいた第一次世界大戦のドイツ人捕虜たち。板東収容所は所長・松江豊寿の人道的で寛容な方針のもと、捕虜たちが多彩な産業活動・文化活動を行ったことで知られる。収容所内ではパン屋、家具屋、レストラン、ボーリング場、郵便局などが開業・運営され、テニスやサッカー、水泳などのスポーツの他、演奏会や講演会、演劇もたびたび行われた。そして地元住民は親しみを込めて彼らを「ドイツさん」と呼び、高度な技術や文化を学ぶなど、交流を育んだ。

 この信じがたい史実と、それを可能にした友愛の精神。「第九」こそがそのシンボルであると考え、鳴門市では1982年以来毎年6月に「第九」の演奏会を開催している。このために結成した合唱団「鳴門『第九』を歌う会」は、舞台で歌うだけでなく演奏会の運営を中心的に担ってきた。合唱団員の募集、練習会のオペレーション、会場設営、リハーサル、来場客の誘導から、指揮者選びや全国公募するソリストのオーディションに至るまで、外部に任せず手作りで行う。地域での「第九」普及にも力を入れ、鳴門市内の中学生・高校生向けの合唱教室で指導し、また市内外のイベントにも声がかかれば喜んで出向き、歌う。

 鳴門から日本へ、そして世界へ「初演の地・鳴門で歌う『第九』」の輪を広げたいと他府県に呼びかけ、1989年には「全日本『第九を歌う会』連合会」を結成。今では、海外も含め60を超える団体が演奏会に参加する。初演の地で歌う特別感と、初対面でも「(『第九』のふるさとに)おかえりなさい!」と迎えられる温かさによって、「第九」愛好家の間では鳴門が聖地のような存在になりつつある。また国境を越えて、姉妹都市であるドイツ・リューネブルク市や、捕虜となったドイツ兵が拠点としていた中国・青島での「里帰り公演」も実現させた。

 2018年は初演100周年。前年に行うドイツ里帰り公演では、クリスマスカードのやりとりから消息を掴んだドイツ兵元捕虜の子孫を招待する計画だ。また鳴門で6月1日に行う100周年記念演奏会では、初演と同様に男性だけで編成した演奏・合唱を再現する。しかし「鳴門『第九』を歌う会」は、100周年を“打ち上げ花火”にするつもりはない。歌う喜びを次世代の青少年にも味わって欲しい、これをきっかけに芸術・文化に感動する心を養って欲しい。そのためにこれからも、他のどの土地で演奏されるのとも異なる“特別な「第九」”を歌い継いでゆく。彼らを動かすのは「初演の地だからこそ、良い歌を歌いたい、歌ってもらいたい」という“第九道”とも呼べる熱い思いだ。

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