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サントリー地域文化賞

活動詳細

北海道

北海道 上川地域 2015年受賞

「君の椅子」プロジェクト
地元の材と技術を用い、子どもの誕生を祝う椅子を贈る

代表:磯田憲一 氏

2015年10月更新

活動紹介動画(01:50)
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贈られた「君の椅子」と子どもたち

 北海道の中央部に位置する旭川市は道内の物流の中心地であり、家具のまちとしても知られている。ここには全国各地から家具職人が集まり、技術習得のために旭川市を中心とした上川地域で暮らしている。そんな中、旭川大学特任教授(当時)の磯田憲一氏が大学院の学生と一緒に、「誕生する子どもを迎える喜びを地域で分かち合いたい」との想いから、地元の旭川家具を活用したプロジェクトを考案。「生まれてくれてありがとう。君の居場所はここにあるからね」というメッセージを込め、名前、生年月日、一連番号が刻まれた椅子を贈る「『君の椅子』プロジェクト」を2006年にスタートさせた。北海道上川地域内の5町(東川・剣淵・愛別・東神楽・中川)のほか現在は長野県売木村を加え、6町村で生まれたすべての子どもたちに椅子をプレゼントしている。自治体の枠を越えて個人で参加できる「君の椅子倶楽部」も2009年に誕生した。

 椅子のデザインは毎年変わる。デザインは家具の専門家だけでなく建築家や美術家も担当しており、デザイナーと職人がお互いの意見を交わしながら制作を行う。また、北海道の無垢材を素材とすることにこだわり、2014年より中川町及び北海道大学と「木材安定供給協定」を結び、木材の生産地を地区名まで特定。生育地を地図で示し、製材から制作に至る全工程を「木のプロフィール」として情報提供する業界初の仕組みを確立し、地元の材と技術を用い、地元の子ども達に提供する「文化の地産地消」を実現した。

 「『君の椅子』プロジェクト」に参加している自治体は広域連携実行委員会を作り、植樹会や交流会などを共同で実施している。この一環として、2011年の東日本大震災の際には、被災3県で3月11日に生まれた子どもに「おめでとう」の思いを伝えるため、「希望の君の椅子」と名づけた椅子をプレゼントした。被災3県合わせて128の市町村に手紙を出して問い合わせ、104人が誕生していたことを把握。名前の判明した98人の家族のもとに、東川・剣淵・愛別3町の町民の募金によって作られた椅子を贈呈したのである。

 上川地域では以前から子どもの誕生を祝う文化がある。愛別町には花火を上げて祝う「ハッピーボーン」という活動があり、「絵本の里」剣淵町では新生児に絵本を贈呈するなど、子どもの誕生を地域全体でお祝いしている。上川地域では、生まれてくる子どもにどんなデザインの椅子がもらえるのか楽しみに待つ妊婦同士の会話が聞こえてくるという。「『君の椅子』プロジェクト」は子どもの誕生を祝う上川地域の文化の一つとして、道外からも注目され始めており、全国に広がっていく兆しもある。

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