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サントリー地域文化賞

活動詳細

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静岡県 磐田市 2013年受賞

桶ケ谷沼 トンボの楽園づくり
地域の人々と行政が一体となり、トンボの楽園を保全

代表:鈴木 裕司 氏

2013年9月更新

活動紹介動画(1:45)
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 静岡県磐田市は、浜松市と静岡市の間に位置し、東海道新幹線・東海道本線・東名高速・国道1号線が東西に走り、様々な企業が工場を構える地方都市である。そんな磐田市の東部に「トンボの楽園」「自然の宝庫」と言われる周囲1.7キロの桶ケ谷沼がある。絶滅危惧種のベッコウトンボを始めとして国内で記録のあるトンボの約3分の1にあたる70種が確認されている。ここには、「楽園」を維持・保全するために、地域の人々と行政が一体となって取り組んできた試行錯誤と苦悩の歴史があった。
 1960年代から地元の生物研究団体「野路会」が沼の動植物調査を開始。単一の沼としては日本一豊富な「トンボ相」を持つことがわかってきた。一方で70〜80年代にかけて、沼の埋め立てや周辺の土砂の採取などの開発が進められていった。1986年、当時の地元の青年会議所仲間が中心となり、貴重なトンボの生息する沼の環境を保全し、トンボの町磐田を全国に発信しようと、「桶ケ谷沼を考える会」が誕生した。同会を中心とした地域団体の行政への働きかけが実を結び、1989年に県が沼と周辺の土地を購入。1991年には静岡県自然環境保全地域に指定され開発の危機は去った。その後2004年には沼のそばに桶ケ谷沼ビジターセンターが開設され、沼の調査研究、環境保全、会合やイベント開催等の拠点施設ができた。
 ところが、沼の開発が止まった後も、渇水や周囲の植生の変化、外来生物の増加など、「トンボの楽園」の危機は次々と訪れた。特にベッコウトンボについては、幼虫であるヤゴや水草を食べてしまうアメリカザリガニが大発生した翌年の1999年には、確認できた個体数が前年の450頭から47頭に激減したという。
 そこで県立磐田南高校の生物部では、ザリガニの侵入を防ぐコンテナを使用することでベッコウトンボの飼育に成功し絶滅を回避した。また、地元の「岩井里山の会」は自然豊かな里山の復元に取り組み、いけす方式によるベッコウトンボ保護エリアを造成して増殖を図っている。このような桶ケ谷沼ビジターセンターを拠点とした保全活動に加えて、一般参加のトンボの観察と個体数調査会などの啓発活動も行っており、地域の人々は創意工夫を重ねながら、「楽園」を守り続けている。

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