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サントリー地域文化賞

活動詳細

四国

香川県 高松市 2012年受賞

イサム・ノグチ日本財団
世界的な芸術家のアトリエを庭園美術館として保存・公開

代表:和泉 正敏 氏

2012年10月更新

活動紹介動画(1分42秒)
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写真

 20世紀を代表する芸術家イサム・ノグチ(1904-1988)が、初めて高松市郊外の牟礼を訪れたのは1956年のことだった。パリのユネスコ本部の庭園に使う石を探していたノグチは、有名な庵治石の産地であり、五剣山と屋島をのぞみ、静かな田園風景が広がるこの地に、特別なインスピレーションを感じたという。
 1964年、大きな花崗岩の彫刻『黒い太陽』制作のため、石工たちの協力を求めて、ノグチは再び牟礼を訪れた。そこで、20代の石の作家・和泉正敏氏やその仲間たちと出会い、彼らと共に石の勉強をしながら制作をしたいと、1969年、ノグチ65歳の時にここにアトリエを構えた。さらに丸亀の豪商の家を移築して「イサム家」を建て、1982年、愛媛の酒蔵を「展示蔵」として移築し、1983年、大地そのものを造形する「彫刻庭園」を造るなど、石工や大工たちとともに創作活動と生活の拠点を整えながら、ノグチは人生最後の20年間、ニューヨークと行き来しながら1年の半分近くを日本で過ごした。
 生前ノグチは、将来この場を、慈善と教育のために役立ててほしいと望んでいた。その遺志を受けた和泉氏やノグチと親交のあった方たちが中心となって、10年をかけて公開の準備を行い1999年1月に「イサム・ノグチ日本財団」を設立、同年5月に「イサム・ノグチ庭園美術館」を開館した。
 「イサム・ノグチ庭園美術館」は、150点余の彫刻作品のほか、制作途中の作品など、生前の雰囲気そのままに、一人の作家が晩年石に向かったその創作の現場を公開する美術館で、全体が一つの環境彫刻とも言われている。見学者は作品や庭園、「イサム家」そして風景も含めて、空間全体が、偉大な芸術家ノグチの感性によって一つの宇宙のようになっていることに気づく。
 財団スタッフは、毎回の見学後、場を清め人の気配を消し、ノグチがいた時と同じような静謐な空間やたたずまいを守っている。周辺環境の整備も進め、ノグチの創造力の源となった牟礼の豊かな自然環境の保全に努めている。そのほか、ノグチの人と作品を伝えるシンポジウムの開催やノグチ彫刻の魅力を身体で感じられる遊具彫刻の設置など、ノグチ芸術の普及と理解の促進のための事業も行っている。
 これまで美術館を訪れた人は、世界82カ国のべ10万人以上にのぼる。香川県内からも多くの人が来館し、開館当初、県内で知名度の低かったイサム・ノグチの名は、いまでは香川県ゆかりの芸術家として広く知られるようになっている。かつてこの地はノグチの創作活動を支え、そして現在は彼の作品や空間が地域の素晴らしさを発信している。イサム・ノグチ庭園美術館は、ノグチからの「未来への贈りもの」であり、地域から世界への窓としてこれからも大切な存在であり続けるだろう。

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