サントリー文化財団

menu

サントリー文化財団トップ > サントリー地域文化賞 > 地域別受賞者一覧 > 福岡県立北九州高等学校「魚部」

サントリー地域文化賞

活動詳細

九州・沖縄

福岡県 北九州市 2011年受賞

福岡県立北九州高等学校「魚部」
高校生による地域に密着した水辺探索

代表:井上 大輔 氏

2011年10月更新

活動紹介動画(1分32秒)
動画を観る
写真
いかだ遊びと川辺の生きもの調べ
(2010年8月3日実施)

 「魚部」の発足は1998年。文化祭を控え、休部状態だった理科部に「川に入って魚探しをしよう」との井上大輔国語教諭の呼びかけに応えた10名の帰宅部生徒たちが入部した。文化祭での「紫川の魚展」の成功を機に、水辺の楽しさに目覚めた生徒たちは、水辺探索の活動を本格化。海辺で育ち、水辺の生物好きな井上先生を筆頭に、魚探しに夢中になる中で、「魚ばかり探している俺達は、魚部だ!」と名乗るようになった。

 「魚部」という名前だが、調べる対象は魚だけにとどまらず、甲殻類や水生昆虫など水辺に生息する生物全般に広がる。これまで、土日や長期休みを利用して、北九州市中心を流れる紫川や福岡県内の池や干潟など、地域のあらゆる水辺に出かけ、10年以上生物調査を続けてきた。わからないことはその都度専門の研究者に尋ねて正確な記録を残しており、学問的な信頼も厚い。魚部の調査をもとに、道路建設が自然環境に配慮したものに見直された実績もある。絶滅危惧種などの貴重な発見も数多く、専門家を驚かせてきた。

 また、単に調べるだけではなく、身近な水辺の楽しさを地域の人たちと分かち合いたいと、水辺に親しむイベントも開催している。紫川での生物観察会や川遊び体験会は、親しみやすい高校生の先生が人気で、子どもからお年寄りまで幅広い世代が参加する。年間約15万人が訪れる北九州市立水環境館では、常設展示と企画展示を行っており、本格的な解説と高校生ならではの遊び心ある展示が好評だ。他にも、市や町内会のお祭りでのレクチャーや展示、JR城野駅での常設の水槽展示「紫川ミニ水族館」や、地元ミニコミ誌と共催の観察会など、学外との連携を深めながら、地域に根差した活動を充実させている。さらに『北九州の干潟BOOK』や『紫川大図鑑』など、他に類を見ないこだわりの本の出版も行っており、ユニークな活躍は県外からも注目を集める。

 学校内では、空き教室を部室として活用し、50基以上の水槽で生物を育成するほか、2000年には全校生徒に呼びかけてビオトープを制作。地域で生育場所を失った希少な水草の保護も行い、近隣の保育園の遠足や小学校、高齢者のグループに、自然に親しむ場を提供している。

 魚部には、顧問の井上教諭をはじめ、専門家はいない。だが地道な調査研究の積み重ねが、地域の自然保護の役に立ったり、市民が身近な自然を見直すきっかけとなったり、様々な成果につながって、地域の知恵袋として頼りにされるようになった。一方、誰よりも楽しそうに水辺の魅力を語り、生物探しに夢中になる純粋な姿は、多くの市民の心をひきつける。魚部は「北九州に魚部あり」と市民に愛される存在であり、その活躍は、市民の誇りとなっている。

サントリー文化財団