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サントリー地域文化賞

活動詳細

近畿

和歌山県 田辺市 2009年受賞

南方熊楠顕彰会
地域住民・研究者・行政が協力して郷土の偉人を顕彰

代表:真砂 充敏 氏

2009年9月更新

活動紹介動画(1分32秒)
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写真
南方熊楠賞授賞式(2009年)

 1867年、和歌山県に生まれた南方熊楠は、幼少期から独特の関心をもって博物学を志し、世界を転々とした後、生活費の困窮から日本に戻った。帰国後しばらくは熊野の那智山にこもり、生物の採集を続けていたが、山を下りて訪れた田辺が気に入り、後半生をここで過ごすこととした。田辺に定住した熊楠は、生涯アカデミズムから離れたアマチュア研究者として、人文科学と自然科学にまたがる他に類を見ない独創的な研究を続けたが、その研究フィールドとなったのは自宅の庭や近くの神社の森、田辺の街という身近な場所だった。友人と毎晩酒場に通い、「討ち死に」していたというエピソードもあり、その強烈な個性は田辺の人々を魅了していた。

 1941年の死後、研究と生活の場であった自宅や蔵には、多くの標本や多言語・多分野にわたる蔵書、熊楠以外に判読困難な研究ノート・日記などが遺されており、地元ではなんとかこの家を保存し、資料の研究をしたいという思いがあった。しかしなかなか実現に至らず、1987年、官民協働の体制でようやく「南方熊楠邸保存顕彰会」が発足。膨大な資料の整理と調査・研究に着手し、その成果を論集としてまとめた。さらに、南方熊楠賞の創設、シンポジウムの開催などの活動を通じて、熊楠の業績を紹介してきた。

 2005年に「南方熊楠顕彰会」と改称。現在は南方邸の隣に建てた南方熊楠顕彰館を拠点として、調査・研究の続行、デジタル画像化などの資料整備を中心に、月例の展示、子ども向け講座や熊楠ゆかりの地を訪ねるツアー、田辺市内や周辺のオリエンテーリングなど、多様な事業を行っている。

 1987年の発足以来、事業は地域住民・研究者・行政が連携して行ってきた。地域に根差した熊楠の研究人生を立体的に明らかにするには、地域住民と行政の協力が必要であり、多分野にわたる熊楠の研究を理解するには多くの専門家の助けが欠かせない。顕彰活動の中で三者は理想的なバランスを保ってきた。南方邸に遺された資料の調査・整備を進めたことはもちろん、こうした人のネットワークができたことも、活動の大きな成果である。

 さらに、顕彰会が熊楠の人物像や研究を丁寧に紹介してきたことで、地域に根差した実像が全国に知られるようになった。また田辺市民も熊楠を身近に思うようになった。田辺市内には今も熊楠の主張によって守られた神社の森がいくつもあり、街の背後に熊楠の存在を感じることができる。学校教育の場でも顕彰会が作った副読本が用いられており、田辺の小学生は「ねんきん」と聞けば、植物と動物両方の性質を持ち、熊楠を虜にした「粘菌」を思い浮かべるという。

 田辺の住宅街にある南方邸と顕彰館には、今や全国から熊楠ファンや研究者が訪れるようになった。彼らとの交流の中で、田辺市民も新鮮な目でふるさとの魅力を再発見することができ、郷土の偉人として熊楠を誇りに思う気持ちが芽生えている。

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