活動詳細
茨城県 常陸大宮市 2006年受賞
西塩子の回り舞台保存会
現存する日本最古の組立式回り舞台の復興
代表:大貫 信正 氏
2006年8月更新
江戸時代に発展し、日本の伝統芸能の代表格となった歌舞伎は、かつて全国各地の農村や漁村において、村人たちが自ら演じ、楽しむ娯楽でもあった。茨城県北西部山間の常陸大宮市西塩子には、村の人形浄瑠璃や歌舞伎に用いられた組み立て式の回り舞台が保存されている。この舞台を3年に一度組み立て、公演を行っているのが「西塩子の回り舞台保存会」である。
結成の発端は1991年、常陸大宮市歴史民俗資料館によって行われた回り舞台の調査に遡る。舞台は1945年以来一度も組み立てられず、地元の神社の倉庫に置かれていた。調査によれば、江戸時代後期には組み立てられ、使用された形跡があり、現存するものでは日本最古の組み立て式回り舞台であることがわかった。これがきっかけとなって、1994年に、西塩子地区の全住民を会員として「西塩子の回り舞台保存会」が結成され、舞台の組み立てを目指すことになった。だが、約70戸からなる高齢化が進む地区にあって、組み立て経験者が皆無の状態でどうやって復元するのか、組み立てる意味はあるのか等々、住民たちの不安の声は大きく、実現はほとんど不可能かと思われた。しかし、古老の昔話を聞き、他地域の農村歌舞伎を見学するなど、地道な会合を重ねるうちに、次第に住民の心も動き、結成から3年後の1997年、50年ぶりに回り舞台を組み上げ、地芝居の公演を開催するに至った。
それ以来4回の組み立てを行っている。2000年からは3年に一度の定期公演として、保存会で力を合わせて、設営と当日の運営を行っている。組み上げには約一ヶ月を要するが、近隣の人たちの手もかりて、何もない空き地に間口、奥行きともに20メートル、高さ7メートルの青竹のアーチ型の天井のある壮麗な舞台を出現させる。
舞台の上では西塩子地区の若衆で結成された「西若座」の地芝居や子ども歌舞伎が披露され、会場は4000人の観客で埋め尽くされる。茨城県内外から観客が集まるだけではなく、遠方の親戚やめったに会わない友人同士が顔を合わせる機会でもあり、舞台の復興と共に、途絶えていた古い関係も戻りつつあるという。
また、周辺地域から保存会を支える活動も立ち上がっている。古い歴史を持つ大きな襖と大幕を現代人のサイズに合うように甦らせようというプロジェクトは、保存会以外にも地元高校生や他のボランティアグループが主体となって、もり立てた。特に大幕の制作は種まきや糸紡ぎから始まって4年が費やされ、完成品にはプロジェクトに携わった全員の名前が記されて、2006年秋の公演でお披露目を待っている。
保存会の活動は、西塩子という小さな地区を起点として、常陸大宮の内外に新しい人の輪を広げている。地域の文化財を現代に活かすのみならず、こうした幅広い人々の交流を生み出したことは、保存会の大きな功績と言えるだろう。