活動詳細
石川県 金沢市 2005年受賞
浅の川園遊会
浅野川を舞台にお座敷文化や芸能を市民が気軽に楽しむイベント
代表:佃 一成(いちなり) 氏
2005年8月更新
金沢市の中心部を流れる浅野川はその流れの穏やかさから女川とも呼ばれ、加賀友禅の流しが行われることでも有名な清流である。この川を挟んだ東西には180年以上の歴史ある茶屋街があり、長唄、三味線などの師弟や和楽器や道具を作る職人が数多く暮らすこの町の生活には、芸事が自然に溶け込んでいた。しかし近代化によって、郷土の町並みや情緒ある暮らしは次第に失われつつあった。これを危惧した地域の有志が集まって、町に活気を取り戻そうと1987年に「浅の川園遊会」を立ち上げた。毎年桜が見ごろの時期に、二日間に渡って開催される。金沢の春を告げるイベントとして定着してきており、来年で20回目を迎える。
祭の期間は浅野川にせり出した浮き舞台を特設し、茶屋街の芸妓がほぼ総出演で、仕舞や筝曲、お座敷太鼓といった芸の数々を披露する。中でもひときわ観客の注目を集めるのが水芸「平成・瀧の白糸」である。これは金沢出身の泉鏡花の小説『義血侠血』に登場する芸妓「瀧の白糸」の水芸をモデルにしている。水芸とは江戸時代から伝わる水を用いた手品である。太夫の合図と共に、手元や舞台の至る所から水が噴き上がり、その不思議な仕組みに観客は目を奪われる。この他にも浅野川両岸のお茶屋を安価に利用できる体験券が販売されたり、有名料亭の花見弁当や出店があったりと、普段はあまり触れる機会のないお座敷文化や食文化を気軽に楽しめるような工夫がなされている。
企画や運営は全てボランティア実行委員が行っており、浅野川界隈の自然・文化を愛する人なら誰でも参加することができる。代表実行委員を務める老舗の旦那衆も祭を我田引水的なものにはせず、芸事を楽しむ一市民として運営に携わっている。資金面では川の両岸に並ぶぼんぼりへの広告として企業や個人から協賛金を募り、祭の雰囲気作りに一役買ってもらう形で協力を依頼する。また園遊会の開催前後に恒例となっている河川敷一帯の掃除には、界隈の自然と町並みに磨きをかけようという主旨に賛同した多くの市民が、肩書きや身分に関係なく集まってくる。満開の桜と共に姿を現した浮き舞台が祭の後には跡形もなく元通りに片付けられる様は、幻想的な鏡花の小説世界を彷彿とさせ、園遊会の情景をより印象的なものにし、人々の心に祭の後も町を美しくしようという気持ちを引き起こさせる。
この日のために芸を研鑚し、披露する芸妓衆も含め、園遊会に関わる人々は金沢の文化を守り育てるまちづくりの担い手でもある。当初は数人から始まったボランティアの数も現在では300名を超える。市民一人一人の町に対する意識も着実に向上していて、浅野川周辺地域では治安の改善やごみの減少といった具体的な成果も現れている。園遊会をきっかけに、金沢はかつての古き良き風土を取り戻しつつある。将来的には、市民が日常的に踊りや長唄などを楽しむことができ、これらの芸の継承の場にもなるような「浅の川演舞場」の建設計画もあり、浅の川園遊会を起点に広がりつづける市民の輪は、今後も生まれ変わった文化都市金沢をよりいっそう輝かせていくことだろう。






