サントリー文化財団

menu

サントリー文化財団トップ > サントリー地域文化賞 > 地域別受賞者一覧 > 美濃流し仁輪加

サントリー地域文化賞

活動詳細

中部

岐阜県 美濃市 2003年受賞

美濃流し仁輪加
郷土芸能を地域の老若男女で楽しみ、各地への情報発信と連携に取り組む

代表:磯部 勲 氏

2003年8月更新

活動紹介動画(1分52秒)
動画を観る
写真
15町内が競い合う仁輪加コンクール

 和紙の産地として栄え、市内の一角には豪壮で独特な意匠を持つ町家が数多く残されている美濃市。ここでは、毎年4月の第二土曜日と日曜日の二日間、美濃まつりで市中が賑わう。昼間は、山車と和紙の花をつけた「花みこし」が街を練り歩き、夜になると、各町内の辻々で演じられる「美濃流し仁輪加」で笑いの渦が広がる。

 「にわか」は、地域ごとに「俄」「仁輪加」「仁和加」「仁〇加」とも書く。最後に「落ち」(美濃では「落とし」と言う)がつくユーモアたっぷりの寸劇のことで、江戸時代に上方で流行し、全国に広がった。美濃には、京・大坂と往来のあった紙商人が、江戸時代末期に伝えたといわれている。大八車かリヤカーに、提灯を吊るした松を立てた「にわか車」を曳き、お囃子を演奏しながら街を流し、各町内の辻々で仁輪加を演じて歩く独特のスタイルから、「美濃流し仁輪加」と呼ばれている。

 演じられる仁輪加は、毎年、新作である。祭りが近づくと、各町内の若衆連が、毎夜、仕事の後に集まり、台本を練り、セリフとお囃子の練習に励む。地元や日本、さらには世界の政治や世相を幅広く取り上げ、風刺や洒落のきいたネタを、独特の美濃町弁で演じる。衣装、メイクにも凝り、子どもからお年寄りまで、地元の人々が大笑いしながらこれを楽しむ。そして、各町内に設けられた市内15会場のほかに、コンクール会場でも仁輪加を演じ、出来栄えを競う。優勝は、その町内の栄誉となる。

 美濃では、仁輪加を演じるのは10代から40代の若手であることも大きな特徴である。そして、これをサポートしているのが、町ごとの保存会であり、各保存会から選出された役員によって構成される「美濃市仁輪加連盟」と、その事務局である美濃市商工観光課、そして何よりも仁輪加を愛し、育んできた美濃の人々である。

 1970年、東京の国立劇場で、「博多仁和加」「大坂俄」と初めて競演したことをきっかけに、郷土の貴重な文化遺産である「美濃流し仁輪加」の保存・継承を図ろうと、同年、「美濃市仁輪加保存会」(現在の「美濃市仁輪加連盟」)が結成された。保存会設立当時、仁輪加を演じているのは3町だけであったが、その後、仁輪加を復活させる町が徐々に増え、今では15町内で仁輪加が演じられている。

 さらに、1992年には、全国20ヶ所ほどで継承されている「にわか」との交流を目的に「第1回全国にわかフェスタ」を開催。1995年には、全国の研究者や保存会関係者に呼びかけて「にわか学会」を設立し、第1回大会を美濃市で開催した。また、1997年から「美濃にわか台本コンクール」を開催し、台本を全国から募集している。

 美濃市では、幼稚園や小・中学校に仁輪加クラブがつくられ、結婚式などのお祝いごとの場では、友人グループによる仁輪加が演じられる。伝統芸能が、地域の誇りとも、コミュニケーションの潤滑剤ともなり、人々の生活の中で生き生きと息づいているのである。

サントリー文化財団