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サントリー地域文化賞

活動詳細

近畿

京都府 京都市 2002年受賞

遠藤 寿美子氏(個人)
演劇人の発掘や伝統芸能の国際交流など、新しい演劇文化をプロデュース

2002年7月更新

写真
読売演劇賞「最優秀作品賞」受賞挨拶

 東京を中心に実験劇場、小劇場運動が盛んだった1980年代、京都市では公演するにも劇場がほとんど無く、東京の劇団も素通りするような状態だった。こうした中で1984年、遠藤寿美子氏が仲間らとともに左京区下鴨の住宅街に、提供された民家を使ってアートスペース「無門館」を設立した。爾来ここを京都の演劇活動の拠点として、若い演劇人への啓蒙と支援を目指した演劇支援活動がスタートした。遠藤氏は無名だが個性的で、将来性のある京都の学生劇団や演劇サークルを次々と発掘し、彼らの発表の場として同館を提供してきた。

 この支援活動を通じて、現在全国的にあるいは海外で活躍する優れた劇作家や演劇人を育成し、演劇界における京都の存在感を大きく高める牽引力になった。劇団M・O・P主宰のマキノノゾミ、岸田戯曲賞受賞の松田正隆、鈴江俊郎、芸術祭演劇部門優秀賞の土田英生、さらにはパフォーマンスグループのダムタイプらが、若き日にこの「無門館」の舞台で才能を磨き、演劇への夢を育んだ。

 遠藤氏は10年で「無門館」の活動を次世代に渡し、その後舞台製作・企画のプロデューサーとして活躍の世界を広げる。総合芸術としての演劇のレベルアップに取り組みながらも、「芝居で一番大事なのは観客。自分が観客としてええな、と思うものを作りたい」と常に語るように、演劇が市民権を獲得し、市民との出会いを作ることに、遠藤氏の理想がある。1991年から京都市が、現状からの飛躍を期して芸術文化の活性化を図る「芸術祭典・京」では、演劇部門を担当。京都の街を劇場に見立て、寺社、広場、商店街などを舞台に、時には地域市民も巻き込んだ数々の演劇活動に挑戦してきた。

 とくに京都市美術館大陳列室をステージにしたダムタイプの公演では、大胆で斬新な試みが大きな注目を浴びた。これらの活動は、既存の施設をたくみに用いて、市民の精神的な歴史性を現代アートに融合する、という遠藤氏の理念の発現でもある。

 1997年には先の「芸術祭典・京」で、演劇部門プロデューサーとして自ら手がけた「月の岬」が、読売演劇大賞最優秀賞に輝いた。遠藤氏は京都にあって、京都在住の若い演劇人や市民と文化行政を結ぶ懸け橋として、余人になし難い役割を果たしている。

 近年は、日本の伝統芸能を現代社会に生かす活動や、伝統芸能による海外交流に力を注いでいる。これまでに日本・デンマーク共同制作の「多角の旅」(ノルウェー)、能・狂言「喜松会」(ポーランド、リトアニア)など数多くの公演を行い、本年はニューヨークで「上方落語」、バルト3国で「伝統<能>と現代<ダムタイプ>」の公演を企画している。

 ややもすれば古都の名に安住しがちな京都にあって、遠藤寿美子氏はそのバイタリティと情熱で、地域に根ざした新しい演劇創造を目指して邁進している。

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