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サントリー地域文化賞

活動詳細

九州・沖縄

鹿児島県 蒲生町 2001年受賞

蒲生郷太鼓坊主
独創的な太鼓演奏を通じ、地域の活性化と韓国との国際交流に貢献

代表:田中 久嗣 氏

2001年5月更新

活動紹介動画(02:00)
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写真
マレーシアでの公演

 「蒲生の大楠」は雄大である。鹿児島県姶良郡蒲生町の八幡神社境内に根回り34m、高さ30m、樹齢1500年と推定される大楠が聳えている。その神社の「大楠どんとあきまつり」には五穀豊穣への感謝を込めて、ドーンと勇ましい「太鼓坊主」の太鼓が鳴り響く。

 「太鼓坊主」の歴史は1979年に遡る。同年蒲生町町制50周年を機に、町は青年団有志に呼びかけ、文化活動として和太鼓を奨励したことに端を発する。

 7年後の86年、もっと自由に活動をしたいと願うメンバーが集い、町から独立して「太鼓集団蒲生郷太鼓坊主」を結成。「太鼓坊主」の「てこ」は太鼓の方言であり、「坊主」にはいつまでも少年のように伸びやかであろうとの意志が込められている。

 88年、「太鼓坊主」のメンバーの一人が韓国人学生のホームステイを引き受けたことがきっかけとなり、日本や日本文化に対してまだまだ根強い不信感があった韓国で、戦後初の民間団体による文化交流を実現する。中央大学校音楽大学国樂管弦楽団との共演であった。その際、韓国伝統音楽の第一人者であり、ソウル・オリンピックの入場曲作曲者朴範薫氏に絶賛され自信をつける。以降韓国との交流が始まるが、ニュージーランド、シンガポールへと活動の輪を広げる。89年、神社の大楠が日本一と認定されたのを機に、町の誇りである大楠にあやかり「太鼓坊主」も大きく羽ばたこうと、神社の秋祭りの盛り上げを企画する。「大楠どんとあきまつり」の始まりである。「太鼓坊主」の演奏と友情参加の「ソウル国樂芸術高等学校」の生徒達の演奏や舞踊が、蒲生の秋を国際色に彩る。

 メンバーの職業はさまざまである。薬局店主、菜種油製造業、韓国語教師、散髪屋さん……。それぞれ責任ある仕事をこなしながら、週2回の夜間練習、年間30数回の公演活動は大変だ。「独立直後はもっと大変でした。若かったとは言え、太鼓やトラック代の借金返済に追われ100回近い公演に走り回った年もあります。思う存分太鼓を叩ける練習場が欲しくて、山を切り開いて小屋を建てましたが、マムシが怖くて女性一人では近寄れません。冬寒く夏暑い小屋に発電機を持ち込んでの練習でした。15年間無我夢中で走ってきました。国際交流や町おこしなどと周囲からほめられると戸惑ってしまいます。自分たちの子供を充分構ってやれなかったのが少し心残りです」と彼等は言う。

 メンバー14名のうち舞台に立つのは10名、加えて5名が研修中である。面白いことに誰も楽譜が読めないと言う。謙遜ではあろうが、太鼓は頭で打つものではなく、天地の鼓動、身心の躍動であると言いたいのだろう。彼等の持ち曲は全て創作である。和太鼓、篠笛に加えて韓国を始めアジア各国の楽器やリズムを採り入れた「太鼓坊主」の演奏は多様であり自由である。“坊主”はこんごも若々しく新たな展開を見せてくれるだろう。

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