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サントリー地域文化賞

活動詳細

中国

島根県 浜田市 2000年受賞

波佐文化協会
チベット探検家・能海寛の顕彰と生涯教育を通じたコミュニティ活動を継続

代表:隅田 正三 氏

2000年5月更新

活動紹介動画(2:00)
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波佐文化協会

 島根県金城町波佐地区は、広島との県境にほど近い中国山地の山あいに広がる世帯数約270戸の集落である。この地域は昔から幾度も風水害に見舞われ、それを乗り越えてきた人々の間には強い団結力が培われてきたという。

 しかし戦後は御多分にもれず、波佐でも出稼ぎ・離村・過疎が進み、地域の連帯感が薄れつつあった。1972年、これを憂へた3人の有志が資金を持ち寄り、波佐文化協会を設立した。協会の目的は“生涯学習による町おこし”。爾来30年近くにわたる波佐文化協会の活動は、大きく次の4期に分かれる。

 第1期は、働く人たちが夜間に学ぶための成人学級の開講。書道、茶道、文芸、陶芸、絵画、郷土史など、受講料は1回(2時間)100円だった。当初は小学校の教室や消防署の倉庫を借りていたが、受講者の熱意に押されて、金城町は波佐地区に町で最初の公民館を建設した。波佐文化協会による成人学級は10年間続き、延べ1500人がここで学ぶ。この生涯学習講座は82年から町の社会教育事業として引き継がれた。

 第2期は、1982年から93年にかけての機関誌「なわて」の発行。「なわて」とはあぜ道のことである。“明るいまちづくりをめざすコミュニケーション誌”と銘打ち、全戸に無料配布。地元の各種グループ紹介や文化財探訪、日本近代演劇のパイオニア島村抱月やチベット探検の先駆者能海寛など金城町出身の偉人の生涯や業績の紹介、環境問題など、地域に密着した情報を特集を組んで掲載した。

 第3期は1986年から、「なわて」の発行と平行して、地域活動や職場のリーダーとなる人材を育成する「波佐寺小屋セミナー」を開催。続いて90年からはより実践的な学習会「なわて塾」を開講し、古墳の発掘調査、島村抱月と能海寛の顕彰、観光パンフレットの作成、町への地域振興プラン提言などを行った。

 第4期の活動は、1995年に設立した「能海寛研究会」を中心に展開されている。研究会メンバーには町内の住民だけでなく、全国の学者や研究者が多数名を連ねている。能海寛は日本仏教の再生を願い、経典を求めて明治期に中国からチベットに向かい消息を絶った。しかし、波佐文化協会の努力により、彼が実家に送り届けた旅日記や仏像・仏具など千数百点の遺品が同地区で発見された。研究会では、これらの遺品の整理や調査・研究を行うとともに、仏教哲学、民俗学、中国語・チベット語などの言語学をはじめ62項目にわたる幅広い領域を学習し、「能海学」を構築することを目指している。会員の研鑚の場である研究会のほか、内外の研究者を招いての講演会や音楽会、写真展を開催してきた。さらに本年8月には能海寛訪中100年を記念し、中国で日中合同の研究発表を通じた国際交流を計画している。

 長い歴史を持つ波佐文化協会の多彩な活動は、自ら学び、互いに研鑚しあう“生涯学習”を通じて、精神的な豊かさと結びつきを育むユニークなコミュニティ活動である。

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