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サントリー地域文化賞

活動詳細

近畿

兵庫県 姫路市 1998年受賞

日本玩具博物館
失われゆく郷土玩具7万点を個人で収集・保存し、国内外に紹介

代表:井上 重義 氏

1999年11月更新

活動紹介動画(02:00)
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日本玩具博物館

 国宝姫路城の北東約10キロ、播磨地方のほぼ中心に位置する香寺町。緑豊かなこの町に、雑木林に囲まれた白壁造りの土蔵風の建物群、それが世界120ヵ国の玩具約7万点を所蔵し、人口約2万人のこの町に、全国各地から毎年6万人もの来館者を集めている「日本玩具博物館」である。国内最大、いや世界でも有数の規模を誇るこの博物館は、館長である井上氏の30年以上にわたる私財を投じた情熱的な活動の結晶といえるであろう。

 玩具は子どもが遊ぶ道具であるが、紙、土、木などの自然素材を用い、子どもへの愛情を込めて作られた郷土玩具には、その土地の風土や習慣が息づき、さまざまな文化の母体となるものが凝縮された貴重な文化財でもある。近年、プラスチック製品の進出により世界中からこのような自然素材の手づくり玩具が急速に姿を消しつつあるが、ここでは日本の郷土玩具や懐かしい駄菓子屋の玩具、さらには世界各地の珍しい玩具や人形が訪れる者を迎えてくれる。

 1963年、高校を卒業後地元の電鉄会社に勤めていた井上氏は、行きつけの書店で偶然『日本の郷土玩具』(斎藤良輔著)という本と出会い、初めて郷土玩具の世界に触れる。その中で「日本の郷土玩具は世界に誇れる素晴らしいものであるが、日本人自身がそれを認識しておらず、時代に流され、どんどん消えつつある」ことを知った井上氏は、郷土玩具に惹かれるとともにそれを自ら収集・保存し、後世に残していきたいという思いを強めていった。

 当時(1960年代)、“おもちゃ”はまだ博物館資料としての価値を認められておらず、博物館に飾るなどということは考えることもできない時代であった。そうしたなか、井上氏は非番の時を利用して夜行列車で古い民家などをまわり、ひたすら古い玩具の収集を続け、1974年、自宅の敷地内での47平方メートルほどの小さな展示室の開設にこぎつけた。これが館の始まりで、その後の資料増加にともなって増築を繰り返し、現在では6棟660平方メートルの施設となっている。

 1984年、45歳で電鉄会社を退職し、以後博物館活動に専念。常設展のほか、季節に因んだ年4回の企画展や、年3回の特別展などを実施。伝承の途絶えていた「ちりめん細工」を、残存する資料や文献により復元し、展示会や講座などの開催を通じて愛好家を増やして復活させたり、日本や世界の伝承おもちゃをヒントに、身の回りの品々を利用して作る手づくりおもちゃ講習会も多数開催、おもちゃ文化の普及にも努めている。また、積極的な海外の玩具博物館との情報交換や資料交換などを通じて、世界の玩具文化に関するネットワークを築きあげつつあるなど、その活動は世界に広がっている。これまでにベルギー、スイス、アメリカ、ブラジル、中国の各都市でも所蔵品の展覧会を開催、成功を収めた。

 1998年2月、個人経営としては国内で4例目の「博物館相当施設」の認定を受け、さらに99年には文部省の「親しむ博物館づくり」事業(全国で31館)の委嘱を受けるなど、その活動に対する評価は、ますます高まっている。

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