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サントリー地域文化賞

活動詳細

中部

愛知県 名古屋市 1996年受賞

名古屋むすめ歌舞伎
女性だけで演じる新しい歌舞伎の魅力を創造し、活発な舞台活動を展開

代表:加藤 えみ子 氏

1999年11月更新

写真
「絵本太功記」尼ヶ崎閑居の場

 1983年、歌舞伎の魅力にとりつかれた女性たちが、観るだけでなく自分たちでも実際に演じてみたいと、同好会「中部邦楽教室」を結成した。男性にしか門戸が開かれていない歌舞伎を、女性がどのように演じて行けば良いのかと様々な資料を調べた。そして、戦後まもなく愛知県豊川市を拠点に全国的に活躍していた「市川少女歌舞伎」の存在を知り、当時の劇団員を講師として迎えて本格的に稽古をはじめた。同年、「名古屋むすめ歌舞伎」として劇団を結成し、1985年には名古屋市内のホールで旗揚げ公演を行った。以後も年に一度の公演を行い、着実に支持者を増やしている。老若男女を問わず幅広い層から観客を集め、現在の中心メンバー13名の中には「むすめ歌舞伎」の舞台を観て、自分も参加したいと門をたたいた者も多い。

 メンバーは仕事の傍ら、日本舞踊や浄瑠璃などの稽古に励む一方、女性だけの歌舞伎にふさわしいスタイルについて常に試行錯誤を重ねている。家柄などの伝統の枠や性別に組み込まれない分、「歌舞伎が好き」という純粋な気持ちで自分たちの歌舞伎を追求できる。そのような「むすめ歌舞伎」の活動は、歌舞伎関係者や劇団関係者にとっても良い刺激となっている。市川団十郎氏や市川猿之助氏も彼女たちの熱心な支援者となり、隈取りの仕方から演出に至るまで親身になって相談に応じている。

 当初は型をなぞることからはじめたが、近年は表現力と共に作品の解釈も深まり、充実した舞台になってきたといわれている。各地からの招聘公演の数も年々増え、ことに、1992年の東京での公演に際しては、メンバーの内の3人が市川宗家より市川姓の襲名を許されるようになった。

 作品の上演に際しては、稽古に入る前に全員で原作を読み込んで研究し、時にはせりふを補い、十分に理解を得た上で舞台に挑んでいる。

 1995年から学生を対象に「アイラブ歌舞伎」を開催。「自分たちが演じたいと思った時に、多くの人達が助けて下さった。今度は自分たちが若い人達の力になる番」と、今までに学んできた歌舞伎の基本を教えている。97年の名古屋まつりの際には、オーディションで選ばれた市民を指導し、市民カブキ「Si Si Si Kabuki(そう!そう!歌舞伎)」を上演。人気のある演目の見せ場を織り交ぜ、複数の花道を用いるなど斬新かつ壮大な演出で好評を博した。また、98年より若手を中心に実験的かつ古格を守った公演「小娘会」を主催し、広く若い世代の支持を集めている。

 団十郎氏は「『むすめ歌舞伎』の役者は倣うべき「親」のいない歌舞伎役者。芸のスタイルを自分たち自身で確立していかなければならない。しかしその反面、従来の歌舞伎の世界では様々なしがらみのためにできないようなことにもどんどん挑戦して行ってほしい」とあたたかい目で見守っている。

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