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サントリー地域文化賞

活動詳細

中部

静岡県 静岡市 1994年受賞

青嶋 昭男氏・青嶋 節子氏(個人)
80人収容のホールに毎月一流の音楽家たちを招き、手づくりコンサートを開催

1999年11月更新

活動紹介動画(02:00)
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写真
青嶋ホールでのリハーサル風景

 静岡市の閑静な住宅街に、ちょっと変わった建物がある。外形は曲線が波打ち、天井が斜めに傾いている。空から見ると、ちょうど「ふたを開けたグランド・ピアノの形」をしている。外壁にはバイオリンをかたどったレリーフがあり、小さく「青嶋ホール」と書かれている。かたどられたバイオリンはストラディバリウスだそうだ。重い扉を開けると、内部はさして広くなく、椅子を80席も入れれば一杯になるほど。平行面がなく、凸面ばかりという特殊な建築で、残響は1.2秒という。

 この小さなホールで、超一流のコンサートが開かれている。ピアノの舘野泉、ヤン・ホラーク、バイオリンの石川静、安永徹、チェロの堤剛、徳永兼一郎各氏など。もともとコンサート用に作られたものではないが、せっかくなのでと、1976年12月にバイオリンの外山滋氏を招いてオープニング・コンサートを開いたところ、驚くほどの成功をみた。以来、噂が噂を呼び、「青嶋ホールサロンコンサート」はすでに二百数十回を重ねている。

 ホールは青嶋昭男・青嶋節子ご夫妻の自宅横。静岡室内楽協会会長で日本弦楽指導者協会静岡県支部長の青嶋昭男氏が練習用に作った。夫人の青嶋節子さんがコンサートの企画を行う。ピアノならピアノ、バイオリンならバイオリンと、それぞれの音楽愛好家に1通ずつ手書きの案内状を送るなど、節子さんの対応は極めてきめ細かい。聴衆の好みを知り尽くし、演奏される音楽に一番ふさわしい聴衆を集める。こうした配慮は演奏家の間で評判となり、舘野氏をはじめ多数の演奏家が、青嶋ホールを愛し、繰り返しコンサートに訪れる。

 また、夫妻のあたたかなもてなしが縁となり、コンサートを開く海外の演奏家も多い。デリケートな演奏家たちは、東京公演と名古屋公演の間に急に練習したくなることもあるという。名古屋へ向かう新幹線の中から、練習のためホールを貸して欲しいという電話にも気安く応じ、演奏家との交流が生まれる。やがて、夫妻が外国に赴くときは、かの地にすむ演奏家を訪ね、逆に、海外の演奏家は来日するとまず静岡を目指すというほど、演奏家との絆は次第に深まっていく。その結果、新ブタペスト弦楽四重奏団がコンサートを開くなど、100席に満たないサロン・コンサートでは考えられないような演奏が実現することになる。

 最近では、かねてより要望が強かったものの、オーケストラが入れない小さなホールでは実現できなかった舘野氏のコンチェルトリサイタルを他のホールを借りて開催したり、高橋悠治氏を中心に結成された「糸」による現代邦楽や、インド古典音楽とカタックダンスといったクラシックの枠にとらわれない芸術を紹介するなど、青嶋夫妻の活動はいよいよ幅を広げている。

 音楽家と聴衆が小さな青嶋ホールで生み出す一体感は誠に稀有のもの。小さなホールから世界的な音楽の調べが今日も聞こえてくる。

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