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サントリー地域文化賞

活動詳細

東北

福島県 檜枝岐村 1992年受賞

檜枝岐 いこいと伝統の村づくり
自然の恵みと伝統文化を村づくりにいかすコミュニティ活動

代表:星 勝夫 氏

1999年11月更新

写真
檜枝岐歌舞伎
千葉之家花駒座の公演

 村は、毎年5月を待ちわびている。村人たちが二百数十年にわたって守り続けている歌舞伎が奉納される春祭と、村を抱くように広がる尾瀬の山開きが行われるからである。

 福島県檜枝岐村、平家の落人伝説もあるこの山里は、県の西南端に位置し、新潟県、群馬県、栃木県に境を接する。人ロは約700人、世帯数およそ200という同県最小の村である。檜枝岐川流域のわずかな平地に集落はあり、村の95%が山林で、耕地はわずかに2ヘクタール、高地のため米は一粒もとれない。かつては文字通り陸の孤島のような貧しい村であった。

 しかしこの村は、1960年ごろを境に大きな変貌を遂げていく。只見川の電源開発に伴う固定資産税などが村の財政を潤し、道路網の整備もすすみ、尾瀬の福島側玄関口として脚光を浴び始めたのである。以来村は、村民一体となって魅力ある地域づくりに取り組み始め、今では多くの人を迎えるようになった。

 ここには豊かな自然と伝統文化が見事にいかされている。尾瀬沼や燧岳をはじめとする美しい景観、江戸期から伝わる農村歌舞伎、伝統技術をいかした曲げ物などの木工製品。つなぎ粉を一切使わず布を裁つように切ることから名付けられた裁ちそばや、貧しかったために生まれた山人料理は食の文化財とも言えよう。こうした資源に加え、忘れてはならないのが、村づくりの随所に散りばめられた村人の知恵と工夫である。「檜枝岐歌舞伎の夕べ」「新そば祭」といった四季折々のイベント、特産の檜をふんだんに使った交流センター、尾瀬の魅力を紹介する「ミニ尾瀬公園」「尾瀬ブナの森ミュージアム」、日本水連公認の温水プールもある温泉館などの諸施設、豪雪地のハンディを逆利用してのイベント「真夏の雪祭り」など個性的なアイデアに満ちている。また自然保護運動の草分け、武田久吉博士の遺品を展示した「武田久吉メモリアルホール」も開設された。

 檜枝岐村の誇る自然が尾瀬だとすれば、伝統文化の代表は「檜枝岐歌舞伎」。戦後の食糧難の時期や60年代中頃陥った後継者不足などの危機も何とか乗り切り、今でも、村人たちだけで編成された「千葉之家花駒座」によって受け継がれている。現在座員は28名、その素顔は、小学生、主婦、役場の職員、消防士など実に様々である。出し物は「一之谷嫩軍記 熊谷陣屋の段」など11本。村人は「歌舞伎を守ることは檜枝岐に住むものの使命である」と言う。後援会も発足して支援体制も整い、山形県の黒森歌舞伎との合同公演や念願の東京自主公演も実現させるなど活動の幅を広げており、近年は歌舞伎衣装、小道具などの倉庫をそなえた公民館施設「東雲館」を設置するなど農村歌舞伎への情熱は衰えを知らない。

 この村は、民宿から一般家庭まで温泉が全戸給湯されトイレも水洗化されているというユニークな一面を持っているが、自然と伝統の生み出すハーモニーが、村人の生活に潤いを与え、訪れる人にもいこいと安らぎをもたらしてくれる。

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