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サントリー地域文化賞

活動詳細

中国

鳥取県 米子市 1991年受賞

永井 伸和氏(個人)
読書運動の推進や地方出版の育成を通じた、本による地域文化づくり

1999年11月更新

活動紹介動画(02:00)
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写真
「本の学校」と移動図書館

 日本は有数の出版大国である。出版年鑑によれば、一年間の出版点数は6万点、書籍雑誌併せて66億冊におよぶ。これだけの出版ラッシュにもかかわらずというべきか、あるいは、出版ラッシュだからこそというべきか、日本人の活字離れが指摘されて久しい。時として良書は悪書に駆逐されることも珍しくない。「田ありて耕さざれば倉廩虚し、書ありて教えざれば子孫愚かなり」という古人の嘆きは、書籍の洪水の中で皮肉にも活字文化の素晴らしさを見失った日本人への警告のようにも聞こえる。

 米子市で老舗の今井書店を経営する永井伸和さんは、そんな日本の出版界を強く憂慮する一人である。今井書店は1872年創業、1972年に創業百年を迎えた。「百年の単位で歴史を振り返ってみると、書店というものが如何に地域社会の恩恵を受けて成り立っていたものか、改めて強く感じた」と永井氏は言う。今井書店の百周年記念座談会で、「鳥取県内での市立図書館の開設」「地方出版の育成」の提案を受けた永井さんが、誰をあてにするわけでもなく、率先して献身的にその提言を実現していこうとした姿勢は、老舗の百年の歴史につき動かされたものなのかもしれない。

 この二つの提案を核に氏の活動は様々な展開を見せる。境港市内で児童文庫の開設を手掛けたのを手始めに、鳥取市内で営む書店内に無料貸出を行う「子ども図書館」という児童文庫のモデルを作り、県内各地に次々と「児童文庫」を誕生させた。また「開かれた図書館づくりのためのシンポジウム」、「地方出版物シンポジウム」をはじめとする各種討論会・講演会を様々な団体と協力しながら開催し、積極的に「地域図書館」と「地方出版」の重要性を訴えていった。時には九州の唐津市から下取りしたブックモービル(移動図書館車)を使って県内を回り、図書館の重要性を身をもって体験してもらったこともある。1987年には、「伯耆文庫」の創刊、総合雑誌「地平線」の創刊(地平線の会)、県全体を巻き込み、本の国体と呼ばれた「ブックインとっとり〈日本の出版文化展〉」の開催と続いていく。さらに、95年には125周年の記念事業として「本の学校」を開設し、出版業界人の養成と、地域の生涯学習の場を提供している。

 これらの活動は永井さん一人の力をはるかにこえるものではあるが、氏がネットワークを広げながら、陰になり日向になり果した役割は非常に大きく評価することができる。また、日本文藝家協会の「文藝書専門店」構想に東京にさきがけて逸早く今井書店が呼応したのも興味深い。書店主といえば、店頭で長々と本を吟味する愛書家の前に「はたき」を持って現れるものとされてきたが、「はたき」の似合わない永井さんの活動は、本は人々の目に触れてこそ文化の根源となり、本を愛することは文化の真髄なのだということを改めてわれわれに示してくれている。

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