活動詳細
宮城県 加美町 1989年受賞
中新田バッハホール
地方における質の高い音楽文化創造の拠点づくりを展開
代表:我孫子 斉 氏
1999年11月更新
1981年2月、仙台から車で北へ約1時間の、ササニシキの産地として知られる中新田のたんぼの真ん中に、音楽ホールが誕生した。地方の時代を象徴するかのように多くの地方自治体でホールの建設が相次いだが、そのほとんどは多目的に使用され、企画も個性乏しいものであった。中新田バッハホールはこうした状況にあきたらず、バッハのような普遍的で歴史的な芸術に地域の人々が触発され、みずからの手で文化を創造する、そのための小さく質素でも質の高い音響を備えたホールづくりを、という明確な思想のもと建設され、運営されている。
小都市のホールにはこれまで見られなかった、各々の公演に最適な音響をつくりだす残響可変装置、バッハの演奏には欠くことのできないパイプオルガンなどを備え、音楽の殿堂としての地位を不動のものにしている。さらに、開館以来、スメタナ弦楽四重奏団、ゲヴァントハウス・バッハ・オーケストラ、N響室内楽、中村紘子氏、前橋汀子氏など、内外の名だたる一流演奏家の公演を企画・実施し、県内外、関東地方の人々にも親しまれるホールとなっている。また、1985年のバッハ生誕300年記念演奏会、バッハにちなんだ作曲作品を発表した「東北の作曲家 85 in Bach Hall」をはじめとする企画にも高い評価が与えられている。
こうしたホールの活動は、地域の人々の誇りであることはもちろん、子どもたちに与える影響もはかりしれない。同ホールに設けられた音楽院では、子どもたちが、舞台で演奏する日を夢見て、バイオリン、パイプオルガン、ソルフェージュなどのレッスンを受けている。1994年からは1年おきに、新潟県を含む東北地方の小・中・高校生を対象にしたバイオリンおよびチェロのコンクールを開催。子どもの弦楽器コンクールは他にあまり例がないこともあり、毎回多数が参加し、レベルも年々向上している。
また、全国の合唱愛好家が集う「創る会」では、1990年から毎年、三善晃氏、林光氏、一柳慧氏ら現代日本を代表する作曲家に委嘱した合唱曲をバッハホールで初演している。全国から中新田に集まった合唱を愛好する会員が、東京混声合唱団桂冠指揮者・田中信昭氏のもと合宿練習を行い披露するもので、バッハホール発の合唱曲として全国の合唱団で歌われている。
同ホールのオープニングコンサートで指揮をした故芥川也寸志氏は「このホールで演奏してみたい、このホールで作品を発表してみたい、こんな欲求を音楽家に抱かせるということは、取りも直さず、このホールの創造的な役割を示すものであり、まさに“地方の時代”を具現するものと言えよう」と語った。
国内外の音楽家、町内外の聴衆が、“田んぼの中の音楽ホール”に集い、心を通わせ、共に語り合う、音楽を通じてのふれあいは、中新田にとどまらず、多くの地域文化創造をめざす人々の注目するところであり、その範としての役割は大きい。