活動詳細
三重県 松阪市 1989年受賞
あいの会「松坂」
松阪木綿を中心とする文化遺産をいかした、郷土愛と出会いの町づくり
代表:田畑 美穂 氏
1999年11月更新

「松坂はことによき里にて、(中略)、富める家おほく、江戸に店という物をかまへおきて、手代といふ物をおほくあらせて、あきなひさせて、あるじは国にのみ居てあそびをり、うはべはさしもあらで、うちうちはいたくゆたかにおごりてわたる。」
これは江戸時代の松坂の国学者、本居宣長の『玉勝間』の一節である。温暖な気候と海陸の交通の便、豊かな生産力に恵まれた松阪は、三井家をはじめとする多くの豪商を生み、江戸期を通じて商業の町として繁栄した。
「あいの会『松坂』」は、地元青年会議所のOBである橋本英一氏と角谷公朗氏、当時松阪市立歴史民俗資料館館長であった田畑美穂氏らを中心に市民有志が集まり、1981年、「郷土の文化遺産の掘り起こしと活用を通じて地域の発展を図る」という目的のもとに結成された。
かつて松阪の手織り木綿は、その粋な藍染めの縞柄が江戸で大変な人気を呼んだ。同会ではこれに着目し、明治以降市場から姿を消してしまった手織り木綿の復興に取り組んだ。田畑氏の地道な研究の成果と地元の主婦たちの協力によって伝統の技を復活、商品化のために松阪もめん手織りセンターを設立し、手織り技術の向上と普及を進めた。同市山間部の過疎地区・宇気郷では、木綿の手織りに取り組む婦人たちが、豊かな自然のなかで泊りがけで手織りを体験できる「うきさとクラフト宿」を設立、地域の活性化にも大いに役立っている。
現在では木綿の復興は順調に軌道に乗っている。「純粋な郷土愛に根ざした町づくりのためには経済的な自立が不可欠である」という信念に基づく木綿商品化の成功は、会の活動の経済的な基盤となっている。しかし、同会の本来の目的は、木綿を商品というよりメディアとして活用してゆくことにある。長い伝統をもつ木綿を自らの手で織りあげることによって郷土愛を育む。また、これを中央の大消費地に出荷し、全国の人に松阪を知ってもらうことで、松阪を出て暮す人々にも故郷を想い出し、誇りを感じてもらうことを願っているのである。
さらに同会では、松阪のイラストガイドマップの出版や、同会の指導・育成によるボランティアガイドの市内観光案内、地域住民の側から城下町の町並み保存を考える「城下町シンポジウム」、本居宣長の人間像に光を当てる無料の講演会や勉強会(宣長夜学)、松阪を発祥の地とする「全国の伊勢屋さん、松坂(阪)屋さん大集合」の開催などの活動によって、松阪の歴史と文化に対する一般の理解と関心を高めることにも尽力している。
豊かな自然に恵まれ、城下町の古い町並みを残す今日の松阪は、かつての賑いこそ失われているが、静かで豊かさと魅力に満ちた地方都市である。「あいの会『松坂』」という名前は、松阪木綿の藍染めの“あい”、出会いの“あい”、郷土愛の“あい”から命名されている。行政や青年会議所、商工会議所をはじめ一般の幅広い市民とも連携しながら、物質ではなく心の豊かさを求める同会の思想と活動は、新しい時代の新しい町づくり運動として、今後益々の活躍が期待されている。




