活動詳細
山形県 鶴岡市 1988年受賞
黒川能
地域の誇りとして、郷土の歴史的文化遺産の黒川能を住民自らの手で保存・継承
代表:阿部 千昭 氏
1999年11月更新
黒川の里は出羽三山の麓、櫛引町にある。500年ともいわれる歴史を持つ黒川能は、この里の鎮守春日神社の祭りの中で神事として成立し、農村の人々によって今日まで脈々と演じ継がれてきた。
祭りのなかで最大のものは、毎年2月1日から2日にかけて行われる王祇祭である。祭りの1ヵ月前から関係者は物忌み精進に入り、種々の準備が始められる。1日の暁、御神体を神社から当屋(その年の当番の家)に迎え、氏子たちが神様の前で酒宴を開き能を演じる。神と人が一体となった熱気の中で、能5番狂言4番が徹夜で演能されるのである。翌朝は御神体を神社に還して、立合い能や神事が夕刻まで続く。2日間にわたり、能を中心とした盛大な祭りが繰り広げられる。
このほか、定期的な演能としては、3月の祈年祭、5月の例大祭、7月の羽黒山花祭への奉納、8月の鶴岡庄内神社の祭礼、11月の新穀感謝祭などがある。ここ黒川では、芸術的洗練を極めた中央五流の能と異なり、祭りを通して農村の四季折々の生活にすっかり溶けこんでいる。黒川能は、芸能の原点である生活と祭りの中に息づく庶民的な熱いエネルギーを、今日に保ち続けているのである。
1961年、黒川能を郷土の誇る歴史的文化遺産として守り育てるため、春日神社氏子でつくっている上座と下座の二座と櫛引町が協力して「黒川能保存会」が設立された。同会では、後継者の育成や能面、装束などの文化財の保存・修理に関する援助、町内外に黒川能に対する理解を広める活動を進めてきた。
今日、祭りの場のみに限らず演能の機会は増え、特に夏の夕べに開かれる薪能「水焔の能」は新たな風物詩となっている。黒川地区の小学校では朝礼の時間に全校児童が謡いを練習し、周辺の中学・高校、地域や職場のサークル活動などで黒川能に親しむ人たちが増えてきている。さらに、専用の能の練習舞台と能面や衣裳の常設展示場を持った「黒川能伝習館」が建設され、1986年には、より幅広い立場で黒川能の振興・発展を目指すために、財団法人黒川能保存伝承事業振興会が設立され、民俗学的な調査・研究や環境条件の整備、機関誌の発行などを行い、山形県及び全国の研究者や一般の協力を集めている。
黒川の里の人々が心を一つにして守り伝えてきた黒川能は、地域の誇りとしてより大きく文化の輪を広げながら、今後とも保存継承されていくことと思われる。





