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サントリー地域文化賞

活動詳細

北海道

北海道 置戸町 1987年受賞

おけと人間ばん馬
ユニークな材木引き競技を核として、創意溢れる「木の町」づくりを展開

代表:高橋 透 氏

1999年11月更新

写真
パワー全開の人間ばん馬レース

 北海道の地名は、多くアイヌ語に源を発する。大雪山系の東麓に位置する置戸町の名もアイヌ語の「オケトウンナイ」(鹿の皮を干す所)に由来し、今でも町はずれの山に入ると、時にエゾシカが姿を現わす。

 明治末期の屯田兵による開拓以来、置戸は森林資源と共に盛衰の波をくり返してきた。しかし、森林ブームに湧いた昭和30年頃の1万2千人をピークに人口は減少し、現在では5千人を下回っている。厳しい過疎化の渦中にあって、1968年に商工会の手でスタートした「おけと夏祭」が導火線となり、商工会青年部を中心とした若者が開拓者魂を発揮する。

 月並な祭りに飽き足らなかった彼らは、木材の町置戸にふさわしい豪快な馬ソリ競技「草ばん馬」を企画。77年には、馬の入手難もあって馬に代って人間がソリを引くという奇抜なアイデアが瓢箪から駒のように飛び出す。名付けて「人間ばん馬」。予選300キログラム、決勝500キログラムの丸太を積んだソリを5人または7人の「人馬チーム」が引っぱり、力と忍耐とチームワークを競う勇壮な競技。80メートルのコース途中に高さ1・2メートルの障害があり、これをこえられず脱落するチームも続出する。

 毎年大会が近づくと、町を挙げて準備が始まる。営林署が丸太を貸し出し、製材会社の重機で会場へ運ぶ。町役場施設課の技術と町民のボランティアで馬場が厳密公平につくられる。馬車馬の如く練習に励むチームには、農家が馬ソリを貸し与え、若い女性が声援をおくる。

 当日は、連勝単式の「人馬券」や予想紙「人馬新聞」が発行され、実況アナウンスも流される。町外の力自慢も参加し優勝を競う。賞金30万円はすべて十円玉で渡され、勝利の重みをいやという程実感できる。マジメと遊び心がうまくミックスされた「人間ばん馬」は年々人気を呼び毎年1万人近い人々が置戸に集まる。

 人間ばん馬の成功を機に、木の町置戸を見直す機運が町全体に高まっていく。穴のあいた丸太から作られた山神太鼓は、夏祭りを盛り上げ、「置戸の四季」「鹿の子沢ファンタジー」など太鼓曲も誕生した。アテ材(加工が難しく捨てていた部分)を工芸的に活用した美しい木目の白い器「オケクラフト」は、町の新しい産業となりつつある。美しい器を生かす料理研究会「トレビアン」、おいしい料理を味わう「馬力を出すべえ祭」の開催等々、次々と発想は広がっていく。

 木材と人材をいかすしかない町の、開き直りとも言える挑戦が、ふるさとの新しい伝統を創り出した。置戸の青年は、「われわれの方が都会の人より生活を楽しんでいますよ」と自信を持って語る。冬は最高でも氷点下10度を下回る寒い町で、住民の熱い試みは絶えず燃え続けている。

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