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サントリー地域文化賞

活動詳細

東北

宮城県 石巻市 1985年受賞

石巻 文化をはぐくむ港町づくり
郷土の天才彫刻家・高橋英吉の遺作収集などを通じ、郷土愛と市民文化を育む

代表:稲井 善次郎 氏

1999年11月更新

写真
市民カンタータ
「大いなる故郷 石巻」

 「金華山海上に見わたし、数百の廻船入江につどい、人家地をあらそいて、竃の煙立ちつづけたり」(「奥の細道」)と、芭蕉が描写した石巻は、古くから港町として栄えた。北上川と太平洋の出会う所、海の道、川の道、陸の道を通じて、各地の人びとが行き交い様々の文化を石巻の地に運んできた。

 港町特有の開放性と進取の気風は連綿と受け継がれ、今も“新しもの好き”の風土は変わらない。戦後まもなく建設された公民館を根城に、多くの市民が文芸、音楽、演劇、講演会等の新しい文化活動に情熱を注いだ。

 1958年、東京から帰郷した石島恒夫氏が中心となって、「石巻優秀芸術鑑賞会」が発足。内外一流の芸術家を招き、市民に紹介すると共に、文化創造の場として市民会館の建設運動を推進し、67年石巻市民会館が完成。この“新しい革袋”に“新しい酒”を入れるべく、「石巻優秀芸術鑑賞会」は発展的に解消、新たに「石巻芸術協会」が誕生する。

 その後、同協会を中心として、市民合唱団、オーケストラ、バレエ、美術団体等々、芸術・文化の芽が次々と花開き、市制40周年の73年には、市民の力の結晶、創作カンタータ「大いなる故郷 石巻」となって実を結ぶ。

 75年、もう一つの新しい文化の波が興隆する。石巻に生まれ、若くしてガダルカナル島で戦死した天才彫刻家高橋英吉の遺作展がその契機となった。宗左近氏は彼の作品を「夢の発現、生命の炎に形を与えたもの」と絶賛。英吉の作品に触れた人々は、改めて郷土の生んだ芸術家の偉大さに感動した。英吉の従兄にあたる稲井善次郎氏、後輩にあたる橋本晶氏らを中心に、「映画“潮音”を創る会」が結成され、英吉の生涯を市民の手で映画にする運動が始まる。

 英吉の知人・友人を皮切りに、芸術団体、水産会社、小学生からお年寄まで広範な市民から募金が寄せられ、目標を大きく上回る1680万円が集まった。映画の企画にも多くの市民が熱心に参画、市民手づくりの映画「潮音」が完成、市民の間に新たな感動を呼び起こした。そして、この波はさらに広がり、数多くの高橋英吉の作品が石巻に里帰りし、86年には市民の要望で新設の石巻文化センター内に、高橋英吉展示室が設置された。

 その後、こうした市民文化活動の中心的存在であった石島氏、橋本氏が次々と世を去られ、99年には稲井氏も亡くなられた。しかし、彼らがともした港の町の文化の灯は、これからも消えることなく輝きつづけるだろう。

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