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サントリー地域文化賞

活動詳細

九州・沖縄

鹿児島県 鹿児島市 1985年受賞

鹿児島オペラ協会
市民に高度の芸術性をもつ作品を提供し続ける地方オペラ活動

代表:小笠原 克美 氏

1999年11月更新

写真
創作オペラ「カントミ」

 鹿児島は島の多い県である。県本土の西方東シナ海上に上甑島という島が浮かんでいる。鹿児島オペラ協会が巡回公演でこの島を訪れたとき、島の北端、里村の公民館は異常な熱気に包まれた。地元の小中学生にとっては、初めて見る生の芸術。「オペラとは、こんなに迫力があるものなのか。今、私は感激の中にひたっている。」ある中学生がその時の印象をこう語った。

 鹿児島オペラ協会は、1971年8月に結成されて以来、過疎地、離島を厭わず、県内各地での公演を精力的に務めている。特に毎年5月には、「青少年のための芸術鑑賞会」と題して県内巡回公演を行う。例年数ヵ所、多いときには10をこえるまちでオペラを上演してまわる。これまでに県内の市町村は余すところなく訪れている。また、93年からは12月にも、九州電力の協力を得て、「河童譚」と「あまんじゃくとうりこひめ」を、やはり県内各地で上演している。このほかにも、春には「フィガロの結婚」や「カルメン」など海外のオペラを、秋にはオペラの名曲をハイライトでつづるコンサートを定期的に開催するなど、県民へのオペラの浸透に大いに貢献してきた。

 創立以来、同協会では歌手、コーラスなどキャストは地元の人間で構成するが、ノウハウの蓄積のない演出、指揮、照明、装置などは、中央から積極的に一流のスタッフを招聘している。なぜ演出を東京に頼るのか、という疑問に対して、初代会長の有馬万里代氏は「鹿児島で蓄積されていないものをどうして鹿児島に頼れますか」と、「学ぶべき点は学ぶ」という毅然たる姿勢をくずさない。地元だけの自前主義にこだわることなく、芸術としてのオペラの水準向上を常に念頭においた方式は、他県から「鹿児島方式」と呼ばれている。82年、香港で開催された第7回アジア芸術祭では、この「鹿児島方式」で「夕鶴」を上演し、大きな成功を収めた。その水準の高さはロンドンタイムズ紙にも絶賛されたほどである。

 1981年、設立10周年を記念して公募された台本をもとに作り上げられたオペラ「カントミ」は、新たな飛翔への跳躍台となった。奄美大島に伝わる悲恋物語を、哀絶悲愴を極めた蛇皮線による民謡「カントミ節」や郷土色豊かな「八月踊り」などを巧妙に盛り込みながらオペラ化した創作劇は、地方オペラ劇団の特質を存分にいかして新天地を切り拓いた。97年には、県民文化祭のオープニングフェスティバルとして、初めて奄美大島名瀬市での公演が行われた。地元の市民もコーラスで参加し、「カントミ」のふるさとでの公演を祝った。

 これまで中央に依拠せざるをえなかった台本作家、作曲家、指揮者などにも、地元の人材が育ちつつある。「おいしいさつま芋のようなオペラ」と自らを評した有馬前会長の胸の内は、地元オペラの独創性に裏付けられた自信の現れと受けとれるだろう。

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