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サントリー地域文化賞

活動詳細

九州・沖縄

熊本県 熊本市 1984年受賞

高野 和人氏(個人)
地方出版社「青潮社」設立。地域史研究の貴重な基礎資料を復刻出版

1999年11月更新

写真
青潮社の出版物

 1924(大正13)年熊本に生まれた高野氏は、大阪のガリ版印刷屋で6年間の徒弟奉公を終えたのち、51年、郷里に帰るや印刷所「青潮社」を開業し、そのかたわら歴史資料の収集を始めた。その後「青潮社」は官公庁へ出入りする県内第一級の印刷所として成長し、多くの従業員を擁するまでになったが、70年、子供の頃からの夢であった出版に方向転換、その最初の仕事として、郷土史研究の基礎史料となっている『肥後国誌』を出版する。しかし、地方出版に対する壁は厚く収入は減る一方で、ついには印刷機を売却し従業員を解雇せざるを得なくなった。妻と二人になった高野氏は、史料発掘をしながら各地の図書館、大学へ本を売り歩き、その売上げで次の出版につなぐという日々が続く。そうして30年の間に、熊本県を中心に九州全土に及ぶ150冊もの歴史資料を復刻した。

 幻の書として細川家に300年間秘蔵されていた『國郡一統志』や、肥後藩士木村鉄太の足跡を3年がかりで追求する中で生まれた『万延元年遣米使節 航米記』、東大史料編纂所が「地方の出版社でどうしてこれだけのものが出来たのか」と驚嘆した「筑後鷹尾文書」の復刻出版。また1985年から10年間にわたって、「西南戦争史料集」と題して参謀本部編『征西戦記稿』、海軍省編『西南征討志』など合わせて14点18冊の西南戦争に関する膨大な原典史料を発掘して出版した。さらに99年には、翌年創業30周年を迎えるのを記念し、埋もれていた貴重な天皇陵をまとめて『天皇陵絵図史料集』を出版した。

 高野氏の仕事に対しては、県内の郷上史家はもちろん、中央の研究者、作家、さらには海外の日本学者の間でも評価が高く、出版された史料は日本各地の大学、図書館を始め、ハーバード大学、イェール大学、ロンドン大学などの日本研究所へも納められている。

 高野氏の復刻の特徴は、原本を単に復刻するのではなく、執拗な探索のなかから、校訂を厳しくし、索引を加え、解題を付け、或いは新資料を添付するなど、常に現代的な価値づけを怠らないところにある。また40年以上にわたる探索、収集の結果として、いつ、誰が、何を著したかをリストアップした1万枚の索引カードと自伝の年表が手元にある。

 印刷所を捨て史料の復刻に励む高野氏は、「基本的文献というものは、時代をこえて永遠に残るものである。郷土のために永遠に残るものを作りたかった」とその動機を述懐する。また「地域の思想史を形成しながら、無名のままに郷土の根底を支えてきた草もうの史学者たちの隠された業績を発掘し、その実像を追うことが、今の私の秘かな生き甲斐」という高野氏は、出版の話になると情熱的で話の留まることがない。

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