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サントリー地域文化賞

活動詳細

九州・沖縄

福岡県 北九州市 1984年受賞

劇団「青春座」
長年にわたり、地域に密着した演劇活動を続けるアマチュア劇団

代表:井生 定已 氏

2022年4月更新

活動紹介動画(02:01)
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公演風景

 市中に響きわたる小倉祇園太鼓の勇壮なバチ音と無法松。北九州の人々の誇りであり、彼らが愛してやまないこの二つをひっさげて、1983年4月、北九州市の劇団「青春座」は東京で「無法松の一生」を上演。超満員の観客を集め、大好評を博した。

 青春座が誕生したのは終戦の年、1945年10月。敗戦が人々の心に大きな打撃を与え、市街がガレキの山と化した八幡の町で、「日本の復興は演劇によるしかない」という信念を抱いた22名の若者によって結成された。戦後社会の変遷の中で、北九州市合併を機にしたアマチュア劇団の合同公演、児童劇の創作や、市の子ども会主催の「子ども創作劇場」への協力、交通事故や公害問題を扱った社会派劇の上演、九州に取材した郷土ものの上演など幅広い活動を途絶えることなく続け、地元劇団として着実に成長していった。

 とくに、青春座の十八番でもある「無法松の一生」をはじめ、「火野葦平伝」「青木繁―その愛と放浪」「荒城の月」など、九州に生まれ育った人物の生の軌跡を描く郷土ものに寄せる市民の共感と愛着は大きい。風土・生活・文化・言葉を同じくする者同士の間で、役者は役の人物に一体化して、自己の身体と心情で直に語りかけ、観客もまた共感と喝采でそれに応える。確かな深い感動が観客と劇団を固く結びつけ、市民の中に多くの熱心なファンを持っている。

 さらに特筆すべきことは、生活に根ざした土着性に加えて、市民に向けて大きく門戸を開いた開放性である。劇団員は現在36名。全員が職業を持ち、「劇団員はよき社会人であれ」をモットーに徹底したアマチュアリズムで市民生活に根を下ろす。小学生から70歳をこえる人まで入団を受け入れ、役につける層の厚さと「来るを拒まず、去るを追わず」の姿勢から、半世紀以上の歴史の中で劇団員となった者は1000人をこす。84年5月に上演された創作劇「荒城の月」には、劇団員のほか、子ども会、合唱団など各層の市民が協力、スタッフとキャスト合わせて160人が参加した。カーテン・コールには全員が舞台に登場し、満場の観客と一つになって全市民的な広がりを如実に示した。

 また、91年からは、東京や大阪に在住の作家、舞台美術家を加え、90年と96年には中国・大連公演、95年にはガン告知をテーマにした創作劇で2度目の東京公演を成功させている。活力を持ち続けるために常に新しいことに挑戦する努力を怠らない。

 劇団「青春座」は、北九州市民と共に長い歴史を歩み続け、この地にアマチュア演劇による市民文化を実らせた。92年から毎年、北九州市と市内のアマチュア劇団の協力により北九州市演劇祭が開催され、青春座はその中心的存在として活躍している。「市民劇団」と呼ばれるにふさわしい劇団に成長した青春座は、西暦2000年に創立55周年を迎えようとしている。

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