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サントリー地域文化賞

活動詳細

中部

新潟県 佐渡市 1982年受賞

佐渡版画村運動
農・漁民による版画制作と普及活動を通じ、過疎化に対抗する地域づくりを展開

代表:高橋 保 氏

2022年4月更新

活動紹介動画(02:00)
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写真
佐渡版画村美術館

 蝶の形をした佐渡島の南半分に横たわる小佐渡山脈、その頂上近くの栗園の中央にある40坪の作業小屋は版画のギャラリーとして全島に知られている。制作したのは近くの静山部落20戸の農民たちである。山あいの段々畑に点在する農家の人々が農作業の余暇に制作したその版画には目を見張る瑞々しさがある。そのなかには県展第1位に輝く作品のほか入選作品も多い。静山部落とは別の山あいの小倉部落もいわゆる千枚田の静かな農山村だが、ここでも夫婦5組を含めた20人が版画の制作をしている。佐渡の農山村各地区でこうした形で版画制作をしている人は約200人。

 佐渡版画村運動の中心的存在が高橋信一氏であった。同氏は1949年に両津高校の教諭に就任以来、ユニークな版画指導を行い、同高校は連続して全国コンクールに大量入選し、56年から60年まで連続5回の郵政大臣賞を受けるなど「版画の学校」として知られるようになる。

 佐渡の良さ、美しさを絵を描くなかで悟ってほしいと願う同氏は、76年に高校を退職してのち、農民に版画を教えることに情熱を傾け、農山村の人々もこれにこたえて生活のなかに美を求める心を養い、見事に結実してきたのである。「目標を一つにして村民たちが互いに協同して何かに取り組むこと、それが過疎化に対応する力である」と同氏は言う。

 司馬遼太郎氏は『胡蝶の夢』のなかで、「佐渡の人で侍というものはいないのである。農家の子のすぐれた者が相川奉行所の地役人に採用されて、いわば士格を持つが、これは稀少で、佐渡では本来百姓が学問や芸能あるいは躾の文化を担っている」と書いているが、佐渡版画村運動が地域文化として定着する素地を佐渡島は備えているのであろう。

 両津の高橋氏の庭に版画道場が開かれ、同氏を慕って全島から集まる人々はここで版画制作の指導を受けるとともに、佐渡の来し方行く末を熱いまなざしで語り合った。1984年、この集まりが社団法人「佐渡版画村」として生まれ変わり、全国初の「版画村美術館」がオープンした。同館では作品の展示のほか、島内の親子や島への修学旅行生を対象にした版画教室や催しを行っている。

 1986年12月、高橋氏は69歳でこの世を去った。しかし、氏が生涯を賭けた版画村運動はすでに佐渡にしっかりと根をおろし、着実に大きく育っている。88年、『高橋信一/佐渡版画村 作品集』が跡を継ぐ人々の手で刊行された。その後も版画作品の展示会は続けられ、97年に全国生涯学習フェスティバルにおいて文部大臣感謝状を受けるなど、その運動は高い評価を得つづけている。

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