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東北農民管弦楽団 「第4回定期演奏会 天童公演」

  • 実施日時

    2017年3月5日(日)13:30開演

  • 実施場所
    天童市市民文化会館
  • プログラム

    混声合唱と管弦楽のための「チェコ農民賛歌」【日本初演】
    作曲:ドヴォルジャーク  作詞:ピッピフ  指揮:出井則太郎

    混声合唱とオーケストラのためのカンタータ「土の歌」
    作曲:佐藤 眞  作詞:大木惇夫  指揮:鈴木義孝

    交響曲第9番 ホ短調作品95「新世界より」
    作曲:ドヴォルジャーク  指揮:折居周二

  • 出演

    東北農民管弦楽団、合唱団じゃがいも、女声合唱団上山こまくさ、将監グリーンハーモニー
    寒河江混声合唱団、河北町混声合唱団、女声合唱団べに花

主催者からのレポートをお届けします。

◇東北農民管弦楽団とは
「東北農民管弦楽団」は、「おれたちはみな農民である/ずゐぶん忙しく仕事もつらい/芸術をもてあの灰色の労働を燃せ」ではじまる宮沢賢治の「農民芸術概論」の精神に共感する農業関係者だけで構成するオーケストラです。団結成のきっかけは、団の代表が以前農業研修中の時代に「北海道農民管弦楽団」(牧野時夫代表)の演奏会に2回参加させていただいた経験がもとになっています。東北にもぜひ農民管弦楽団を作りたいという思いから、2013年の「北海道農民管弦楽団花巻公演」に合わせて「東北農民管弦楽団」を立ち上げ、合同で演奏をすることになったのが始まりでした。 オーケストラのメンバーは、農家(農地を耕作していること。宅地での家庭菜園は含まない)はもちろん、JA職員、農学部の学生や卒業生、農政職員、研究職、獣医さん、お米屋さん、肥料や飼料の会社、農機具メーカーにお勤めの方など、何らかの形で農業に関わっている人々で構成されています。また、メンバーの中には、東日本大震災で被災した方や震災復興に携わる方も含まれており、団規約にも復興への願いを定めています。


これまで、2014年に弘前市で結成記念演奏会、2015年に花巻市で第2回定期演奏会、2016年に仙台市で第3回定期演奏会、そして今回の天童市で第4回定期演奏会と、東北の各県を順番に回って演奏活動を積み重ねてきました。
演奏曲は「宮沢賢治」か「農」に関する曲であることの2点を基本としています。また、賢治の理念を引き継ぎ①音楽をとおして農村からの文化を発信すること。②都市住民との交流をはかること。③クラシック音楽に触れる機会の少ない農村地域での演奏を大切にすること。を心がけて活動しています。
演奏活動は、基本的に毎年農閑期の冬のみとしており、10月頃に顔合わせをかねた練習合宿を行い、その後、月に2~3回のペースで賢治誕生の地でもある花巻市に集って練習を重ね、翌年の2月~3月にかけて演奏会を開催します。東北を中心に、関東、関西にもメンバーがいるため、なかなか毎回の練習に参加できないこと、またそのための交通費がかなりの額になってしまうことが活動をする上での悩みの種ですが、演奏会では、いつも温かくとても大きな反響があること、確実にファンの方が増えていることがとても励みとなっています。


◇天童公演について
今回の天童公演では、これまで同様「宮沢賢治」と「農」にかかわる演奏を基本に、地元合唱団と共演することを目指しました。
そんなとき幸運にも、宮沢賢治の作品を「合唱劇」として、山形県内のみならず全国で上演する「合唱団じゃがいも」の代表 鈴木義孝氏との出会いがありました。互いにエネルギーを出し合って、今やるべき演奏曲目は何かについて率直に意見交換を重ねた結果、「チェコ農民賛歌」と「土の歌」の2曲を混声合唱とオーケストラの共演曲として選びました。また、鈴木氏には、この演奏会のために、自らが指導されている他の合唱団にも声をかけてくださり、本番ではとても鍛えられた130名の大合唱団と共演することができました。
さて、1曲目の「チェコ農民賛歌」は、果樹王国山形・天童の地で記念すべき日本初演の演奏となりました。この曲は、1800年代後半にチェコの農民組織の求めに応じて、カレル・ピッピフが作詞、ドヴォルジャークが作曲したものです。歌詞は、チェコの農地や果樹園の美しさを背景に、かつてフス戦争などで多くのチェコの農民が農具であるツェプ(穀物の脱穀に使用する竿)を武器に立ち上がった姿を絡めた、民族的な内容となっています。一方、曲の方は、作曲者のドヴォルジャークが、短くてシンプルにという依頼であったところ、混声四部合唱と管弦楽という本格的な曲に仕上げてしまい、残念ながら、一般の演奏会などで演奏される機会がないまま、今日に至ったようです。
今回、日本語への訳詩に当たってはチェコ語に堪能な当団指揮者の出井則太郎氏を中心に、ミルカ・ズヴェミ氏、間山理美氏、歴史的背景をオンジェ・マツァ氏と、合唱団じゃがいもの鈴木義孝氏の音楽的アドバイスを得て完成することができました。
当団の「ファン」を自認される、出井則太郎氏の指揮で、プログラムの幕開けにふさわしく、明るく、弾むような曲想とともに、地響きのように力強くまっすぐ突き抜けるような合唱団の歌声が響き、演奏会全体への期待感を高めるものになりました。
2曲目の混声合唱とオーケストラのためのカンタータ「土の歌」は、人の命の糧を創り出す土への感謝(第1楽章「農夫と土」)、祖国の土への思い(第2楽章「祖国の土」)、土を覆った戦争・原爆による死の灰、まるで天や地が怒っているかのような災害、人の愚かさと無力さ(第3楽章「死の灰」、第4楽章「もぐらもち」、第5楽章「天地の怒り」)、荒れた大地を諌めるような、鎮めるような祈り(第6楽章「地上の祈り」)、恩寵豊かな大地に心からの感謝と畏敬(第7楽章「大地讃頌」)。から構成されています。
指揮者の鈴木義孝氏は、戦後間もない時期に大木惇夫氏によって作詞されたこの曲が訴える、人間による環境破壊や戦争の愚かさといったテーマ性は少しも古くなっていないことを指摘され、曲への理解を深めることの大切さを伝えてくださいました。
 当団にとっては、なかなかの難曲で、オーケストラと合唱団との合わせ練習も、本番前日、当日というタイトな条件でしたが、鈴木氏の曲への深い理解・洞察力と合唱団の完成度の高さに導かれるように、オーケストラとして持てる力を全部出し切ることができ、感動的な演奏となりました。

3曲目の交響曲第9番ホ短調作品95「新世界より」は、宮沢賢治が、2楽章のメロディーに「種山が原」という詞を付けて詠ったことでも知られています。また、童話『銀河鉄道の夜』でも少女に「新世界交響曲だわ」と言わせるなど、賢治が愛した曲の一つです。
農民でもある折居周二氏の指揮により、前回仙台公演に続いて2度目の演奏となりました。技術的な問題は多々残しながらも、音楽に向かうひたむきさや、農民オーケストラならではの「響き」を感じ取っていただけたものと思います。

◇御支援、御支持ありがとうございました
今回の演奏会成功のために、チケット販売、会場の設営、受付、楽器運搬など現地スタッフとして、天童市のたくさんの方々に御支援をいただきました。Fl大泉さんの御友人、佐藤正宏さん(天童観光大使・WAHAHA本舗)は、山形弁を交えた司会で、とても暖かな雰囲気を作ってくださいました。
また、当団は、創設間もないことや学生団員が多いこと、全国から練習に通うための費用負担が少なくないことなどのため、ぜい弱な財務基盤の下で活動を進めざるを得ない中、「第5回ウィーン・フィル&サントリー音楽復興祈念賞」を受賞することができ、大きな自信と勇気を与えていただきました。
さらに、ロビーに設置した農産物販売コーナーでは、現地スタッフが売り子さんを引き受けてくださり、団員が持ち寄った農産物を休憩時間中に完売といううれしい知らせもありました。
これらたくさんの御支援に対しまして、団員一同心から感謝を申し上げます。
会場アンケートでは、「私は年間かなりの数の吹奏楽やオケの演奏会に行きますが,初めての楽団で感動して泣いたのは初めてです」「力強い,土の香いっぱいの迫力と奥深い繊細さ,十二分に味わうことができました。とても胸がいっぱいです。」「こういった文化,取り組み,暮らしが,山形,東北,私ら若い人にも根づいていってほしい」など、たくさんの感動的な反響や御支持をいただき、団員一同とても嬉しく感じています。
今後も、農民オーケストラの原点を見失わないよう心掛けながら、第5回定演を秋田県で、第6回では福島県での演奏会開催実現のため、真摯に取り組んでまいります。