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アンサンブル・ノマド 「第52回定期演奏会 再生へ Vol.3:祈り~エストニアから震災復興を祈るコンサート」

  • 実施日時

    2015年3月15日(日) 16:00開演

  • 実施場所
    東京オペラシティ リサイタルホール
  • 曲目

    アルヴォ・ペルト:鏡の中の鏡(1978)

    マレ・マルティス:ウネキリ(2014)日本初演

    アルヴォ・ペルト:モーツァルトのアダージョ(1992/2014)

    イムレ・ソアール:シンギングボウルの唄(2014)世界初演

    ヴィル・ヴェスキ:到 達(1999/2014)日本初演

    イムレ・ソアール:希望の唄11032011(2014)日本初演

    奄美島唄「よいすら節」

  • 出演

    アンサンブル・ノマド

    佐藤紀雄(音楽監督・指揮)、木ノ脇道元(フルート)、菊地秀夫(クラリネット)
    野口千代光・花田和加子(ヴァイオリン)、甲斐史子(ヴィオラ)
    佐藤洋嗣(コントラバス)、稲垣 聡(ピアノ)、宮本典子(パーカッション)

    ゲスト

    Kristi Mühling(カンネル)、Villu Veski(サキソフォーン)
    Tammo Sumera(エレクトロニクス)、朝崎郁恵(唄)、高橋 全(ピアノ)
    伊藤めぐみ(クラリネット)、相川麻里子・川口静華(ヴァイオリン)
    斎藤 彩(ヴィオラ)、寺井 創(チェロ)
    女声アンサンブル レガーロ東京、中央区・プリエールジュニアコーラス(合唱)

    音響

    soundcraft LIVE DESIGN

主催者からのレポートをお届けします。
東日本大震災から4年が経ちました。これは、アンサンブル・ノマドが定期公演で震災と向き合うプログラムを行うのに4年かかったという事でもあります。これまでの定期公演では、それが多少抽象的な世界を示唆しつつも、あくまでも音楽や芸術の辺りを逸脱しない程度に、その中で精一杯自由に手をのばしながら関係性を楽しんできた積りでした。その内容はあやふやであることを恐れることはなかったし、むしろあやふやの中に潜むであろう差異が生み出す未知の輝きを期待して遊んでもきました。その試みは日常生活のなかでの音楽の在り方を模索する方法でもありました。そのような事を考えている時にたまたまエストニアで行われた東日本大震災チャリティ・コンサートの模様を知りました。それは、エストニアの人にとってもっとも身近なものである合唱とアンサンブルによるコンサートでしたが、その中で聴くことが出来た「希望の唄11032011」は、様々な音楽の様式を使いながらエレクトロニクスも用いた優れて今日的な表現でもあるのに驚かされました。この作品をきっかけに、静かに耳を傾けることで、失う悲しみや将来への希望を想うようなプログラムを作りたいとおもい今回のプログラムをつくってみました。(アンサンブル・ノマド代表 佐藤紀雄)

エストニアを代表する作曲家のひとりであるアルヴォ・ペルトの「鏡のなかの鏡」は、当初ヴァイオリンとピアノのための曲として作曲されましたが、その後様々な楽器によって演奏されるようになりました。今回は、コントラバスとピアノによる演奏です。明るい室内に吊るされた鏡が、丁度プリズムのように光を複雑に反射させ、鏡そのものとは異なる色彩を生み出すように、曲が織りなす綾織りが聴く人の心にあらたな光を映しだす作品です。

「モーツァルトのアダージョ」は、ペルトの友人だったヴァイオリニストのオルガ・カガンを記念して作曲された曲で、モーツァルトのピアノ・ソナタK.280の第二楽章アダージョを生前のカガンがこよなく愛したピアノ・トリオの編成に、オリジナル作品と思えるほどに自然で繊細なアレンジを施した作品です。

マレ・マルティスの「ウネキリ(眠りのパターン)」は、今回出演したカンテレ(エストニアの民族楽器)奏者である、クリスティ・ミューリングのために作曲された曲です。

「シンギングボウルの唄」は、チベットのシンギングボウル(仏具の鈴に似た楽器)の響きから生まれたもので、若き僧の唱える誦経や、彼が自らの運命に向き合う夢についての語りが基となっています。

「希望の唄11032011」は、2011年にエストニアで行われた<東日本大震災被災者のためのチャリティーコンサート>に於いて、エストニア人作曲家のイムレ・ソアールが作曲した作品です。日本初演となる今回は、女声アンサンブル レガーロ東京と中央区・プリエールジュニアコーラスの皆さんに合唱に加わっていただきました。

『この作品は、合唱と器楽アンサンブルのために書かれた哀歌であり、津波の犠牲者となった東北の人々に捧げる追悼作品です。この曲は、エストニアと日本の2つの民謡に基づいています。それは、エストニアのクーサル出身の歌手ミイナ・ランボット(1888-1963)が歌い、1938年に録音されたクーサルの民謡と、鹿児島出身の歌手、朝崎郁恵が琉球の言葉で歌う沖縄の民謡です。素晴らしい日本の人々に癒しと救済、そして希望を届けるために、この2つの歌が大西洋を越えて出逢いました。
紅き太陽が大地を照らすように、人々の心が永久に強く明るく輝くことを祈ってやみません。(イムレ・ソアール)』

東日本大震災後、個人的に被災地に出向き、避難所等でヴォランティアのコンサートを行ったメンバーもいましたが、これまでアンサンブルとしての活動は行ってきませんでした。冒頭に書いたように、それなりの時間が必要だったということもありますが、一番大きな理由は、本当に被災地の皆さんのためになる活動とはいったい何なのか、という問いに対する明瞭な答えをみつけることができなかったからです。悩みは躊躇いを生み、ためらいは行動の重しとなってしまいます。その間に時は過ぎて行きましたが、メンバーひとりひとりが「何かをさせていただきたい」という思いを持ち続けていたのも事実で、今回、東京という被災地からは離れた場所ではありますが、音楽を通して、被災された方々、亡くなられた多くの方々へ思いを寄せる機会・空間を作れたことは大きな意義を持つものだと思っております(実際、演奏中に客席で静かに涙を流していらしたお客様を多数お見かけしました)。また、遠く離れた異国の地で作られた鎮魂の祈りの作品を日本に紹介できたことも大きな喜びであり、この公演の実現のために復興祈念賞を頂戴できましたことを深く感謝申し上げます。
コンサートを開催する理由の一つには、日常から離れた特別な時間・空間を楽しんでいただくためということがありますが、決して世の中からかけ離れた存在になってはならないと思っております。今回の公演を通してアーティストとして世の中とどう関わっていくべきか、社会におけるアーティストの果たすべき(担える)役割とは何かを、改めて考えさせられました。