Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

ビーズ・ニーズ Recipe Bee’s Knees

シップスミス
ロンドンドライジン
3/5
レモンジュース 1/5
ハチミツ 1/5
シェーク/カクテルグラス
シェークしてグラスに注ぐ

取るに足らないものがエクセレント

ナンセンスの遊び言葉だったはずが、“最高”“一流”といった意味に転じた俗語がある。英語圏では18世紀後半から“取るに足らないもの”としてのジョークで使われていた言葉らしい。ところが20世紀初頭、とくに1920年代になるとアメリカでエクセレントになる。

たとえば“the snake’s hip”(ヘビの尻)、“the cat’s pajamas”(ネコのパジャマ)、“the flea’s eyebrows”(ノミの眉毛)、 “the canary’s tusks”(カナリアの牙)などがある。これらが“最高”という意味を持った。

いまでも生き残っているものに“the bee’s knees”(ハチの膝)がある。韻を踏んでいるようで、語呂がよく響きが心地よいからだろうか。ビジネスが元になっているという説もあるらしいのだがよくはわからない。

1920年代にダンスのチャールストンが流行したこともBee’s Knees定着の要因でもあった。禁酒法下(1920-1933)にあって、その反動からか享楽的な社会現象がみられた時代にチャールストンも人々を魅了した。

1924年、ブロードウェイダンサーでチャールストンのチャンピオンになったベアトリス・A・ジャクソン(Beatrice A. Jackson)の存在が大きい。名前のアタマの綴りBeaから、彼女はBeeの愛称で呼ばれた。

ビー・ジャクソンが踊るチャールストンの足技があまりにも見事だったためにBee’s Kneesとリンクしたといわれている。彼女の存在もあり、人々にエクセレントな言葉として刷り込まれたのだろう。

さて、カクテル「ビーズ・ニーズ」。ジン、レモンジュース 、ハチミツの3種をシェークする。このカクテルの誕生の経緯は定かではないが、こうではないか、という説がある。

まず、アメリカ禁酒法時代の密造のフェイク・ジン、“バスタブ・ジン”が元になっているとの説があった。

密造の粗悪なスピリッツを手に入れ、ジュニパーベリーに似た香りの松の樹脂から抽出したテレピン油と混ぜる。これをバスタブに入れて大量につくっていた(連載第100回『ジン、飛翔/ジャパニーズジン翠』参照)。

このインチキな“バスタブ・ジン”の味わいを誤魔化すために、「ジン・サワー」の砂糖(シュガーシロップ)をハチミツに代えてまろやかさを出そうとしたレシピである、との見解だった。

ところが、いろいろと調べられていくうちに新たな説が浮かび上がる。

話は1929年。ニューヨークはブルックリンの『スタンダード・ユニオン』(4月22日号)紙面に、女性専用バーの最新トレンドが紹介されていた。その記事中に、カクテル「ビーズ・ニーズ」はモーリー・ブラウン(本名マーガレット・ブラウン/Margaret Brown/1867-1932)夫人の発明である、と書かれていた。

夫人は社交界の名士で慈善事業の活動家であったが、何よりも1912年のタイタニック号の生存者であり、“不沈のモーリー・ブラウン”として知られた。彼女は沈没時に救命ボートで避難しながらも、生存者の救命捜索のためにボートを現場近くへと戻させたのだった。

この名高いモーリー夫人の登場で「ビーズ・ニーズ」の誕生説は少しばかり複雑になっていく。

アメリカ人とフランス人の合作

同じく1929年。フランスでカクテルブック『Cocktails de Paris』(カクテル・ド・パリ/イラスト参照)が出版されていた。

そこには「ビーズ・ニーズ」が掲載されており、ホテル・リッツ・パリのヘッドバーテンダー、フランク・マイヤー(Frank Meier/オーストリア出身)の創作と記載されていたのだった。

まったく同じ年に「ビーズ・ニーズ」はアメリカとフランスで登場し、しかも創作者の氏名が異なっている。どちらかが疑われても仕方がないはずなのに、現在の見解に混乱は生じてはいない。

推測の域を脱してはいないのだが、見解はとてもわかりやすい。

モーリー夫人は世界を旅した人である。第一次世界大戦中(1914-1918)は荒廃していくフランスへの支援活動をおこなった。フランスからレジオンドヌール勲章を授けられてもいる。

さらにはホテル・リッツの常連客であったといわれており、マイヤーとも馴染みの仲だったはずだ。

モーリー夫人の提案だったかもしれない。とにかくマイヤーは夫人のために創作したのである。禁酒法下のアメリカではなかなかお目にかかれない正真正銘のロンドンドライジンとレモンジュース、そしてハチミツを加えてつくったのだった。そして夫人はそのカクテルに、当時アメリカで流行していた、“最高”とか“一流”という意味を持つ俗語「ビーズ・ニーズ」という名を冠したのではなかろうか。

とりあえず、そういう話に落ち着こうとする見解がみられる。

1936年、フランク・マイヤーは『The Artistry of Mixing Drinks』を出版した。「ビーズ・ニーズ」のレシピには彼自身のオリジナルであることを示すマークが添えられている。

では、味わい。簡単に言えば、ジンベースのハチミツレモン味となる。

ジンは「シップスミス ロンドンドライジン」を選んだ。口当たりのよさは変わらないが、なんと言ってもパンチがある。甘辛口というか、柔らかくて強いのだ。ハチミツのしなやかなコクを巧く抱き込んだ深みがある。レモンやオレンジのニュアンスを持ちながらも力強い「シップスミス」の特長が生きている。

このカクテルの誕生説をどう解釈するかはお任せしよう。飲みながら想いを巡らしていただきたい。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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シップスミス ロンドンドライジン
シップスミス
ロンドンドライジン

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