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研究助成

成果報告

研究助成「地域文化活動の継承と発展を考える」

2016年度

近代日本における自立的地域文化創生事業の研究-滋賀県長浜市江北図書館の事例に即して-

公益財団法人江北図書館 館長
冨田 光彦

(1)可能となった研究

明治39年創設の公益財団法人江北図書館は、全国的にも貴重とされる膨大な一次史資料¹⁾を所蔵している。しかし、財団の経常年間収入はわずか220万円で、資料研究の経費を捻出できない状況であった。幸い、2012年に「中日教育賞」、2013年に「サントリー地域文化賞」を賜り、史資料の整理分類に着手、2015年度・2016年度にサントリー文化財団より「地域文化活動の実践者と研究者によるグループ研究助成」を受け、長年懸案であった研究を開始することができた。

(2)研究の目的と対象

日本の近代化が進みつつあった明治・大正期の行政文書や、地域において自立的に設立された救済組織の文書等、ほぼ完全な形で江北図書館が保存していた地域資料の研究に取り組み、優れた歴史的教訓を得ること、そして、その教訓を様々な伝達媒体を通じ内外の専門家や地元社会に広報し、文化的地域振興の一助となること、を目指す。具体的には以下を対象として研究を進める。

i)明治中期から大正末期までの伊香郡役所文書¹⁾の研究により、明治・大正期において郡が担った地方行財政・学事・勧業・軍事・社会事業・衛生・災害等多方面の活動を解明する。

ii)明治初期に地元の名望家有志によって設立された社団法人伊香相救社の120年余にわたる罹災者や貧困者の救恤・救済活動の実態を解明する。

iii)江北図書館の設立経緯、110年におよぶ蔵書の収集状況、利用状況、事務運営と財務状況等図書館運営の実態、さらには、地域の文化向上に果たした役割等を明らかにする。

(3)進捗状況

2015年度の助成金を受けた段階で、研究者・地方自治体史の編纂に関わった者および実践者からなる共同研究グループを組織し、以下i)、ii)に着手し、継続中である。

 

i)所蔵資料が膨大で内容が多様であり、劣化も進んでいるため、2015年度は主として史資料の分類・整理、目録作成等を、そして、2016年度は目録作成、簿冊の整理、修復、燻蒸等を進めた。

ii)2015年度、2016年度共に当年度の研究担当分野と研究スケジュールを決め、研究会・報告会、研究フォーラム、資料展示会を開催し、報告内容等について研究グループ内での討議、フォーラムにおいては参加者との質疑応答や意見交換等を行った。

(4)これまでの知見

i)郡役所文書:①明治5年に区制が制定され、近江国が158区に、伊香・西浅井郡(12年伊香郡に併合)が23区に区分されたこと。②郡長引継ぎ書が、しっかり残されており、当時の郡役所運営の全貌が辿れること。③郡予算の使用配分状況が確認できること。④日清・日露戦争における戦死者・傷病者について克明な記録が残されていることなど、往時の地方行政の細部復元が可能となること。

ii)伊香相救社文書:伊香・西浅井郡の世帯約9割が社員(出資者)かつ受益者である全国的にも稀有な社会救済組織の活動記録が示唆する先見性、社会的・歴史的意味の大きさが認識されること。

iii)江北図書館:設立時に図書を寄贈した170者余の中に、木戸東宮侍従長・侯爵など華族、陸軍大将など軍人、上杉愼吉・井上円了・徳富蘇峰・柳田國男など文化人・大学関係者、衆議院議員・東京府知事など政治家、横浜正金銀行頭取など財界人、日本赤十字社長等医療関係、出版社・新聞社、宗教団体等80余者が含まれている。近代化過程の日本における図書館設立への期待の大きさが伺える。

(5)進捗状況

史資料が多岐・膨大であり、研究の完遂にはかなりの時間が必要。研究費確保が課題であること。

以上

¹⁾*伊香郡役所文書(往復・郡制・郡長引継・郡報・郡会・財政・統計・戸籍・選挙・勧業・運輸交通・学事・軍事・兵事・訴訟・衛生・災害・救恤・社会事業・団体・皇室・社寺)

*(社)伊香相救社文書(窮民救済・風水害罹災者救済・医療事業・奨学事業等を目的として設立された自律的組織の文書)

*図書館運営関連文書(寄附行爲證書 圖書館運営規定 財團法人江北圖書館報告 等)

*其の他(『近江伊香郡志』編纂関連資料 柳ヶ瀬関所関連文書 伊香郡内絵図

以上の史資料は滋賀大学経済学部との「使用貸借契約」により、同大学経済経営研究所<士魂商才館>において大切に保管されている。

2017年8月

サントリー文化財団