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研究助成

成果報告

2004年度

「安全保障共同体」としての米欧同盟と日米同盟関係の比較研究

東京外国語大学教授
渡邊 啓貴

 米欧関係はある種の運命共同体的な関係である。イラク戦争前には対立として描いた米欧関係の基本的構造である「安全保障共同体」的な側面が一部では回復されている。それに対して、イラク戦争での日本の強い支持にもかかわらず、この戦争を機会に日米同盟の構造が変わったわけではない。米欧関係に比べて、日米関係には依然として制約がある。
 日米関係は米欧関係と比べると価値観や規範の点で合意形成に成功していない点も多い。それは主に日本の国際安全保障観のあり方に関わっている。アメリカの核の傘の下、主体的外交を展開しないことが内外にとって日本外交の良策であった時期というのは、七〇年代までであった。その後国際社会が日本に対して期待した役割を日本は必ずしも十分に満たしてこなかったと筆者は思う。湾岸戦争後、国際貢献や安保理常任理事国入りなどの論議は活発となったが、真の意味での日本外交の意識変革はまだ不十分である、基本的な価値規範を共有していないために、国際的な文脈や論争の核心についての理解不足の分析とそれに基づいた態度決定がなされなかった。問われるべきは、広い分野に及ぶ人々の間での日本外交に対する見識である。
 その場合の見識というのは、グローバルな立場からの見識という意味である。そして、そのためには同盟関係の「協力と自立のジレンマ」という古典的命題を克服していかねばならない。同盟の目的が協力にあることは改めて言うまでもないが、同盟の指導国と他の諸国との間の摩擦は常に絶えない。そのことは、逆説的だが、同盟が真に信頼に足る相互依存的なものになるための不可避の学習プロセスでもある。ある程度自立した能力と主体性を兼ね備えた同盟国でなければ、真に相互信頼に支えられた強い同盟の形成は不可能だからである。さもなければ、同盟は超大国(盟主)依存の不均衡でユニラテラルなものになったり、そのほかの同盟国によるマルチラテラリズムとの対抗関係を強いられることによって結局は脆弱な体質を曝け出すことになるだろう。
 この協力と自立(主体性)のジレンマについて検討するために、(1)目的・価値を共有する安全保障共同体、(2)機能的有効性とコストのバランスという二つの視角に注目して、とくに冷戦の終結以後の同盟体制のあり方について研究を行った。そうした中で日本の同盟外交は以下のようなスタンスを模索することが不可欠である。

(1) 外交論議のリタラシーを向上させて、単純化された外交論争軸(親米vs反米)を止めること。
(2) 結果オーライの機会主義的外交=「なる」外交から脱出
(3) 「委託される国際協力」への無難な対応から日米安全保障共同体の発想を基盤とする外交的主体性(向米一辺倒の現実主義の克服)
(4) 外交力としての国際見識---広範で客観的な状況認識と判断力
(5) 世界とアジアを結ぶ日本―イラク戦争で対米支持のアジアの意見をまとめた日本

上記のような視点から、アメリカ外交の特徴、イラク情勢をめくる米欧関係の変化、米欧対立の思想的・国際構造的な対立構造、日本の対イラク外交の検証の成果をまとめたものが、拙書『ポスト帝国――二つの普遍主義の対立』(駿河台出版 2005年11月予定)

(敬称略)

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